iPhoneのみで撮影敢行、トランスジェンダーの売春婦に焦点を当てた映画が話題

トランスジェンダー(異なる性別を自認している人)が、ハリウッドで急速に存在感を増している。アメリカの限定都市で現在公開中の映画『Tangerine(原題)』の主人公は、L.A.に生きるトランスジェンダーの売春婦たち。インディーズ映画監督のショーン・ベイカーが、プロデュース・脚本・撮影・キャスティング・編集などひとりでいくつもの役割をこなした低予算映画だ。
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『Tangerine』はコストを下げるだけでなく、常にリアルなショットを抑える目的もあり、iPhone 5sだけを使って撮影を敢行。今年のサンダンス映画祭をはじめ、いくつかの映画祭で上映され、その斬新さが評価されている。
一方、今年1月のゴールデン・グローブで、TVコメディ部門の作品賞と主演男優賞を獲得したのは、父親がトランスジェンダーだったと知って衝撃を受ける家族を描く『Transparent(原題)』。9月のエミー賞でも、作品(コメディシリーズ)部門、主演男優部門など6部門でノミネートされている。アマゾン・スタジオが製作し、プライム会員がダウンロードで視聴できる1回30分程度のシリーズ物で、現在2シーズン目が製作されている。
しかし、トランスジェンダーが注目される最大のきっかけを作ったのは、間違いなく、最近ケイトリン・ジェナーと改名したブルース・ジェンナーだ。リアリティ番組の人気者カーダシアン姉妹の義父で、76年のオリンピックに出場した元スポーツ選手でもあるジェナーは、今年4月、インタビュー番組で、トランスジェンダーであることを告白。続いて、『Vanity Fair』誌の表紙を飾り、この日曜日には、E!チャンネルで、彼に焦点を当てたリアリティ番組『I Am Cait』が放映開始した。初回の視聴率はそこそこのレベルだったが、話題はたっぷり集めている。
これらの番組や映画に共通するのは、ハリウッドのステレオタイプを見せるのではなく、実際の声が伝えられていること。『Transparent』は、クリエーターであるジル・ソロウェイの父がトランスジェンダーだとわかった経験にもとづいて生まれたもので、『Tangerine』は、プロの俳優ではなく、実際にそのエリアで“営業”する本物のトランスジェンダーをキャストしている。そして『I Am Cait』は、女性になってからのジェンナーの日常を伝えるものだ。ここから、この先も、興味深い作品が生まれていくだろうか。(文:猿渡由紀)