公開から50年『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』は未来が詰まった映画―― boid 樋口泰人
セルジオ・レオーネ(監督)、エンニオ・モリコーネ(音楽)、ダリオ・アルジェント(脚本)、ベルナルド・ベルトルッチ(脚本)。今やそれぞれの分野で「巨匠」の名をほしいままにする彼らの若き日に、集って作り上げた映画が『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』である。
【写真】主人公は女性 西部劇『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』フォトギャラリー
50年以上前のことだから、レオーネとモリコーネはアラフォーで、アルジェントとベルトルッチは20代。だから西部劇の名作からの引用も数多く見受けられ、レオーネも意識していたと言われているように「最後の西部劇」とも言えるこの映画には、若き映画人たちの西部劇へのあふれる愛だけでなく、その若さゆえの西部劇の「新たな時代」へ向けての沸き立つ野心もみなぎっていたはずだ。モリコーネと共に作り上げた『荒野の用心棒』(1964)や『夕陽のガンマン』(1965)で世界的な名声を獲得していたレオーネは、当時の西部劇の衰退を実感してこれまでにない新しい西部劇をと、20代の才能を集めたのである。

女性主人公ジルを演じたクラウディア・カルディナーレ
(C)1968 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.
ヘンリー・フォンダ、チャールズ・ブロンソン、ジェイソン・ロバーズという当時の名優たちの中心にクラウディア・カルディナーレがいるという女性中心の西部劇という構成が、新しい時代へと向けたレオーネの野心と言えるだろうか。それまでは荒くれものの男たちを支えるばかりだった女を表に出し、男たちと対等の存在として物語の中心に置く。それだけで世界の見え方ががらりと変わる。物語の背景にあったものたちが不意にその存在を主張し、いかに世界が複雑で多くの生き物たちによって作られていたかをこの映画は示す。
とにかくこの映画の音に耳を傾けてほしい。それまで映画には当たり前に聞こえていた環境音が、何か特別な魔法でもかけられたかのようにひとつひとつの小さなきらめきと共に私たちにささやきかけてくるはずだ。いや、単にそう思えるだけかもしれない。つまりそう思わせられてしまうほど、この映画の細部への配慮が主人公たちの世界を特別なものして、それが西部劇の未来を作り上げているのである。将来巨匠となるスタッフが若き日に集まって作り上げた映画だから映画の未来を作ったのではなく、小さなものへの視線とそれゆえの男女関係の逆転とが、未来の風景を作る。わたしたちの生きるこの足元にこそ私たちの未来があることを、この映画は示したのである。
9月27日より公開されるこの映画は、50年前の公開時より20分長いオリジナル版。当時は監督の意図に反して短縮版が上映されてしまったのである。だからもちろん日本初公開。そしてその初日には新宿ピカデリーでは爆音上映される。爆音によって増幅される背景の音、小さき生き物たちの声を聴く試みと言ったらいいか。この映画の未来を音で増幅させて、わたしたちの未来を作る上映となるはずだ。

『ビバ!レオーネ|セルジオ・レオーネ賛!』(岡村尚人 編)表紙
そしてその公開に合わせてセルジオ・レオーネの映画の魅力を貴重なビジュアルとともにファンたちが語る、豪華ビジュアルブック『ビバ!レオーネ|セルジオ・レオーネ賛!』も発売される。まさにそれは、レオーネの映画に込められた未来をファンたちが自分たちの声でひとつの形にして作り上げたレオーネ映画の未来とも言える。映画はもはや「映画」というひとつの形に納まるものではない。未来は足元にあるのだ。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』は過去の名作のリバイバルではなく、映画やわたしたちの未来の姿でもあるのだ。そしてそれはわたしたちひとりひとりの小さな声の作り出す未来である。是非劇場に駆けつけて、わたしたちの未来を作り上げてほしい。(文・boid 樋口泰人)
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』は9月27日より全国順次公開。新宿ピカデリーにて9月27日爆音上映。丸の内ピカデリーにて9月28日公開記念トークショー開催。
ビジュアルブック『ビバ!レオーネ|セルジオ・レオーネ賛!』は公開劇場およびネット書店、一部映画専門書店で発売。価格は1200円(税抜)。
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