約3時間の上映時間で歴代興収1位に 李相日監督が語る長尺映画の必然性と創作の原点
映画『国宝』が、ついに邦画実写として22年ぶりに歴代興行収入1位を更新する快挙を達成した。監督を務めたのは、先ごろ開催された東京国際映画祭で、世界の映画界に貢献した映画人、そして映画界の未来を託していきたい映画人に贈られる「黒澤明賞」を受賞した李相日。興行収入173.7億円を突破し社会現象となっている『国宝』を筆頭に、これまでも常に観る者の心を揺さぶる作品を送り出してきた。そんな李監督が、小説を映像化ではなく“映画化”することの意味や、約3時間という上映時間が話題になった『国宝』をはじめ、長尺映画への解釈を語った。
【写真】李相日監督の落ち着いた佇まい
■「2時間を超えて語るテーマはあるのか」――長尺映画への挑戦と必然性
映画界の巨匠の名を冠した賞の受賞理由に挙げられた「今後の日本映画、そして世界の映画を牽引することを期待できる人物」という言葉。それは、未来への期待であると同時に、作り手にとっては重圧にもなりうる。しかし、李監督は気負うことなく「牽引というのは、なかなか意識してするものでも、できるものでもないと思うので、何か次の人たちに繋がるような痕跡を残せたらいいなとは思いますけどね」と自らの創作への姿勢を語る。
その言葉通り、李監督は常に映画史に確かな「痕跡」を刻み込んできた。中でも『国宝』は、175分という長尺をもって現代の商業映画の常識に挑んだ作品だ。他にも、李監督は『流浪の月』150分、『怒り』142分、『許されざる者』135分、『悪人』139分など、効率が重視され、上映時間が短いほど興行的に有利とされる現代において、長尺映画に挑んでいるが、その哲学は、過去の経験に裏打ちされている。
「『長ければいいというものではない』とは、若い頃に大ベテランの尊敬しているプロデューサーから頂いた言葉で、編集の段階で『もっと切れ』と度々言われましたね。そのとき、『全体を通して、この物語に2時間を超えて語るテーマはあるのか』と問われて、『なるほど』と。仮に2時間が一つの目安だとしたら、そこを超えてまで訴えるべきテーマや、伝えるべき感情が果たしてあるのかということは、それ以降考えるようにはなりました」。
「2時間を超えて語るテーマはあるのか」――。その自問こそが、李監督にとっての創作の試金石だ。商業的なリスクを度外視しているわけではない。むしろ、時間を超えるだけの価値を作品に与えるという、より高いハードルを自らに課している。だからこそ、『国宝』の長尺には確固たる必然性があった。「『3時間』というのは最初から決めていました。1本の映画であれば3時間は必要だと感じていたので」。

