約3時間の上映時間で歴代興収1位に 李相日監督が語る長尺映画の必然性と創作の原点
一つ一つのシーンに込められた深い意図。では、監督は誰に、この物語を届けようとしているのか。原作ファンか、それとも映画で初めてこの物語に触れる人か。その問いへの答えは、驚くほど明快だった。「明確に後者ですね」。
李監督の視線は、遥か未来を見据えている。今この瞬間だけでなく、10年、30年、50年後にも残る作品を作るために、映画はそれ単体で自立していなければならない。
「こういう言い方が合っているか分かりませんが、映画は年月の風化に耐えなければならないと思っています。もちろん黒澤(明)監督の映画は、何十年経っても古びない。例えば30年後、50年後に小説と比較しながら『国宝』を観る人は少ないと思うんですよね。小説は小説で、映画は映画でそれぞれが異なる形で残っていくものですから」。

『国宝』という大きな成功を経て、作り手として次に向かう場所はどこなのか。観客の期待が高まる一方、監督自身は冷静に自らの立ち位置を見つめている。
「一番怖いのが、成功体験に引っ張られることですね。そこから自己模倣に陥ることへの警戒心が働きます。とはいえ、キャリアを重ねると自分一人で自分を変えることは簡単ではない。例えば海外へ出て環境を変えるか、自分が今まで全く触れてこなかったジャンル、題材、あるいは見知らぬ場所や時代の物語に挑むか。常に『自分』という領域の外に踏み出す意識を持ちたいとは思います」。
商業的な制約に屈することなく、芸術的な必然性をどこまでも追求する。その揺るぎない姿勢こそが、李相日監督の作品が時代を超えて輝き続けるだろうと強く思える理由なのだろう。黒澤明監督から受け継がれたバトンは、確かに未来へと繋がれていく。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)

