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まばたきだけで瞬間的に「入れ替わり」を確信させる 高橋一生の戦略的演技のすごさ

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■彩子か? 日高か? 高橋一生の目の演技に注目!

 しかし、瞬間的に入れ替わったことがわかるのは、目の表情、特にまばたきの違いから。高橋が日高のときは驚くほどまばたきが少なく、黒目が固定されたように真っすぐ動かない。それに対して、彩子になった瞬間から、まばたきが増え、黒目がきょろきょろ泳ぐ。落ち着きのなさや、不安、真面目さなどが目の動きだけで伝わってくるのだ。

 第2話ではもう一度入れ替わろうと高橋演じる彩子が企て、2人で再び階段を転がり落ちるが、彩子が落ちた瞬間に両手をサッと出して確認する目つきだけで、入れ替わりが失敗だったことがわかった。大げさな演出など必要なく、高橋の目だけで彩子なのか、日高なのか、視聴者はおそらく理解できるのだ。

 また、この入れ替わりの物語を盛り上げるために大切なのは、「日高陽斗」というキャラクターが非常に頭のキレるサイコパスな連続殺人鬼という得体の知れない存在であることを印象付けること。

 入れ替え以降、日高になった彩子(高橋)を「逮捕されないように」と応援する視聴者の心の中では、奇妙なことに「日高がつかまるような証拠を残すわけがない」という日高の頭の良さ、ぬかりのなさ、「天才性」にすがるような気持ちになってくる。そんな絶大な信頼感・ある種の頼もしさを、視聴者の中にすでに植え付けているのだ。殺人犯なのに。

 日高という人間が、入れ替わりによって高橋から消えた後にも、綾瀬演じる日高のすごみや強さ・天才性をずっと感じさせるには、中身も外見も一致した高橋演じる日高が、第1話中盤までにその存在感を戦略的に強く印象付けることができたからだ。その戦略の一つが、日高の黒目が全く動かず、まばたきをほとんどしない、感情が全く読めない目の演技にあると思う。

 こうした「消えた後の存在感の残し方」は、高橋一生の得意技の一つでもあると思う。例えば、森絵都原作で、ある塾と家族の半世紀の物語を描いたドラマ『みかづき』(NHK総合/2019年放送)でも、天才的な塾講師を演じた高橋は、途中で姿をくらます。しかし、そこにいない間も、その存在は塾に、家族の間にずっと感じられるものだった。

 映画『億男』でも高橋は、借金生活から一転、宝くじで3億円を当てた佐藤健演じる一男の親友で、自身は億万長者でありながら、一男の3億円を持って失踪する九十九を演じていた。間で登場するのは、わずかな回想シーンと、ラストのほうだけ。にもかかわらず、九十九は姿が見えないのに、ずっと大きな謎を残して物語の中にい続けていた。

 同様に、本作での入れ替わりも、おそらくかなり緻密な計算で行われていそうな高橋一生の存在感の残し方。そして、それをまるごと受け止める綾瀬はるかの器の大きさ。スリリングな物語の展開だけでなく、確実に“演技対決”は『天国と地獄』の大きな見どころの一つとなっている。(文:田幸和歌子)

<田幸和歌子>
1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムをさまざまな媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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