板谷由夏「無理なときは、無理と言う」 “身近な人のせい”にしないためのルール
――板谷さんは女優業のほかに、『news zero』(日本テレビ系)で2007年~2018年の11年間キャスターも務められました。報道に携わって来たことで、見えてきたことはありますか。
板谷:そうですね。一番怖いのは、見えていないこと、自分が知らないことだと思うんです。『夜明けまでバス停で』も同じで、映画を撮っていた時期は昨年11月ですが、今観ると、当時とは日本の状況もまた大きく変わって、ますますいろいろなことが見えてきて、日本がとんでもないところに来ているなと思います。でも、それを見ないフリをしていたり、知らずにいたりしたら、もっと怖いですよね。
――キャスターとしての経験が女優業に生きる面も?
板谷:まったくもって全てが女優業に生きてくることばかりなんですよ。誤解を恐れずに言うなら、さまざまな方に取材させていただき、さまざまな生き方、暮らし、価値観や考え方に触れることは、全部女優業につながってきます。リアルなニュースに接することは、人として成長する上でも、役者としての役作りや作品の解釈の深まり、リアリティを生むためにも、全て糧になる。それに、こういう仕事をしている以上、社会問題を描くような作品にはずっと出続けていたいと思うんです。エンタメには、そういうメッセージを伝える、「気づき」につながる力があると思いますから。
――改めて、この作品に込めた思いをお聞かせください。
板谷:本当に大変な思いをしている人は、映画館に行く余裕なんてないと思うんですよ。映画館に行くためのパワーと、そのための2時間もの時間、それにお金も必要じゃないですか。だから、私たちが「映画を観てください」というのは、ちょっと矛盾しているという気持ちも、正直、あるんです。でも、もし、周りに「助けて」と思っている人がいるとしたら、勇気を持ってなんとか助ける方法を探したい。「お節介だと思われないか」「偽善者と思われないか」と気にしてしまうのも、そういう風に育ってきた、教育による歪みですよね。
この世の中、もっとシンプルで優しさだけでいいのにと思うんですよ。だから、私はお節介と思われても良いし、偽善者だとか、図々しいと思われてもいいから、身近な人をちゃんと守りたい。なんて偉そうなこと言って、マネージャーや主人、子どもたちは私に「だったら、もっと助けてよ」と思っているかもしれませんけど(笑)。
――板谷さんがお子さんなど、身近な人を守るためにしていること、したいことは、どんなことですか。
板谷:私自身が子育ての中で子どもたちによく言っているのは、「今、こういう大変な世の中に生きているのだから、みんなが右だと言っても自分がそうじゃないと思うなら、自分の好きなところに行って、やりたいことをやって良い」ということです。それで、「自分がやりたいことをやっているときに『人に迷惑にならないだろうか』なんて考えなくて良い。それを誰かが迷惑と思うなら、そんなちっちゃい人たちと付き合わなくていいから、迷惑と思わずにあんたのためにやってあげるという人を探しなさい」と言ってあげることが、自分が今できることの一つという気がしていて。次の子どもたちの世代にとって、この世の中はきっともっと大変になっていくと思うけど、だからこそ、自分のやりたいことをやってほしいと思います。
(取材・文:田幸和歌子 写真:松林満美)
映画『夜明けまでバス停で』は、全国順次公開中。