並外れた嗅覚を持つ少女が、母の封じられた記憶を辿る 異色スリラー『ファイブ・デビルズ』監督に聞く
――叔母のジュリアにだけ、タイムリープしたヴィッキーの姿が見える理由は?
ミシウス監督:彼女たちには“つながり”があるんです。マジカルな力は叔母から姪に継承される。最後に登場する少女にも、この“つながり”が生き続ける意味を込めました。
――そう考えると、本作のタイトル『ファイブ・デビルズ』は意味深ですね。
ミシウス監督:舞台となる小村に広がる湖の名であり、母ジョアンヌが働くスポーツセンターの名称です。『ツイン・ピークス』みたいな、場所の名前ですね。でも、私のなかでは同時に、ナディーヌを含めた5人の主要人物を指す言葉でもあります。
映画『ファイブ・デビルズ』より (C)2021 F Comme Film ‐ Trois Brigands Productions ‐ Le Pacte ‐ Wild Bunch International ‐ Auvergne‐Rhone‐ Alpes Cinema ‐ Division
――撮影のポール・ギロームが共同脚本を務めていますが、どのような役割を果たしていますか?
ミシウス監督:彼は『アヴァ』でも共同脚本でしたが、既に私が大半を書き上げた後での参加でした。今回は最初から関わってもらい、彼の視点も大いに盛り込まれています。例えば、ヴィッキーのタイムリープは、私のイメージでは“ただ見ている”だけでしたが、彼がステディカムの使用を提案し、よりドラマティックな映像になりました。脚本執筆と撮影プランは同時進行で、ストーリーテリングのなかにカット割りがあった感じですね。
■ 多面的な魅力を備えたジャンル映画を目指した
――そんな二人三脚の現場で、最もチャレンジングだった場面は?
ミシウス監督:火事の場面です。物語の核となる重要なシーンで、実際に現場に火を放つので失敗は許されません。予算も少なく、用意したモミの木は2本だけ。日光を避けてブルーアワーを狙い、35ミリフィルムを回す。時間の制約もあり、撮影素材もデジタルとは違う。学生時代のジョアンヌとジュリア、ヴィッキーの関係性も明示しなくてはならない。役者もスタッフも本当に大変でした。それが終わると編集段階での特殊効果もあって…。結局、この映画はどの段階でも挑戦だったと言えますね。
映画『ファイブ・デビルズ』より (C)2021 F Comme Film ‐ Trois Brigands Productions ‐ Le Pacte ‐ Wild Bunch International ‐ Auvergne‐Rhone‐ Alpes Cinema ‐ Division
――本作を単にジャンル映画としてくくられてしまうのは不本意かもしれませんが、もし、過去のホラーやスリラーで影響を受けた作品があれば教えてください。
ミシウス監督:これはジャンル映画ですよ(笑)! ホラー映画で参考にしたのは『シャイニング』、ジョーダン・ピールの『ゲット・アウト』、ブライアン・デ・パルマの影響もあります。ただ、インスパイアされたのはジャンルの“概念”で、具体的なオマージュや引用はありません。長い間に蓄積されたホラーやスリラーの定石を踏まえつつ、家族や社会、個人の抱える問題を盛り込む。多面的な魅力を備えたジャンル映画を目指しました。いわば、私なりのやり方で挑戦したジャンル映画なんです。ぜひ、楽しんでいただけるとうれしいです。
(取材・文:山崎圭司)
映画『ファイブ・デビルズ』は公開中。