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<地獄創造>の壮絶な歩み 『マッドゴッド』“特殊効果の神”フィル・ティペット「この映画で私は死んで、再生した」

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映画『マッドゴッド』場面写真
映画『マッドゴッド』場面写真(C)2021 Tippett Studio

 創造とは決して華やかな作業ではなく、混沌の闇から己の分身を鍛造する果てしない苦闘だ。ハリウッドの大物監督たちに「ストップモーション特撮の神」と崇められるフィル・ティペットが30年を費やして完成させた『マッドゴッド』はそう教えてくれる。この世の終わりに、地下深くの暗黒世界に潜入した主人公アサシンが目撃する百鬼夜行の地獄絵図。悪夢のイマジネーションが煌(きら)めく、名伏し難い魂の力作『マッドゴッド』の誕生秘話を、神様はゆっくりとした口調で赤裸々に語り出す。

【写真】百鬼夜行の地獄絵図 執念と狂気のストップモーションアニメ『マッドゴッド』場面写真

■作業を苦労とは思わない

――『マッドゴッド』の唯一無二の世界観は圧巻でしたが、核となる最初のインスピレーションはどんなものだったのですか?

ティペット監督:出発点はシットマンというゾンビのような人々だ。細長い針金状の人物像で知られるアルベルト・ジャコメッティと、彫刻家のオーギュスト・ロダンが合体したようなキャラクターでね。80年代初頭に作った粘土像をずっと手元に置いていた。以後、何年もかけて意図や方向性を探った結果が『マッドゴッド』だ。私のモノづくりはいわば探索だ。『未知との遭遇』の主人公がUFOと出会い、脳内に浮かぶヴィジョンに突き動かされ、無意識にデビルズタワーを作る。まさにそんな感じだ。『マッドゴッド』にもデビルズタワーと似た場所が出てくるが、あの映画の記憶が残っていたのかもしれない。

映画『マッドゴッド』より (C)2021 Tippett Studio
――本作の製作は1990年、『ロボコップ2』の後で始まりましたが、両作に何かつながりはありますか? ロボット墓場の場面であなたが作った「ED‐209」が登場しますが…。

ティペット監督:深い関係はないが「ED‐209」はオマージュだね。この映画は私の脳内に蓄積されたさまざまな仕事や経験のコラージュだから。

――あなたが心惹かれると語る「地獄」の風景はグロステスクでありながらポップで美しく、ヒエロニムス・ボスの絵画のように濃密でしたが、撮影で特に苦労した場面は?

ティペット監督:ないね。作業を苦労と思わないから。ボスの絵画の影響はある。私の父の書斎は怪物や恐竜の本ばかりだった。子どもの頃にそんな本を見て、いつかボスの後継者になりたいと思った。まぁ、身の程知らずの夢だけど(笑)。ただ、映画ではボスの絵の模倣は避けた。完全な盗用ではなく、インスピレーションの源。現代風の翻訳だ。

映画『マッドゴッド』より (C)2021 Tippett Studio
――現代ではデジタル表現の進化と並び、アナログな技術もまた人々を感動させています。日本では昨年、堀貴秀監督が7年かけて独学で完成させた『JUNK HEAD』が公開され、話題になりました。1993年の『ジュラシック・パーク』で「自分の仕事は終わった」と発言されましたが(※)、今はどのようにお考えですか。

ティペット監督:技術の進歩にはあまり関心がない。CGでそれっぽい映像も作れるが、ストップモーションの魅力は手作りの風合いだ。2022年の『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』にはその風合いが生きている。結局は使い方次第だね。

※フィル・ティペットは『ジュラシック・パーク』で恐竜のストップモーションを担当するはずだったが、ILMが制作したリアルなCGをスティーヴン・スピルバーグ監督が採用し、ティペットは降板した。

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■一番影響を受けた監督は、間違いなくポール・バーホーベン

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