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『唄う六人の女』石橋義正監督、10年ぶり新作に込めた“人と自然の共生”への思い

映画

石橋義正監督
石橋義正監督(C)2023「唄う六人の女」製作委員会

 竹野内豊と山田孝之がダブル主演を務め、現在公開中の映画『唄う六人の女』。本作でメガホンをとるのが、マネキン主演ドラマ『オー!マイキー』や、山田孝之主演『ミロクローゼ』などで注目を集めた石橋義正監督だ。10年ぶりの最新作となる本作でもその独特な世界観を遺憾なく発揮した石橋監督に、作品に込めた思いを聞いた。

【写真】竹野内豊、水川あさみとディスカッションする石橋義正監督

◆映画公開で終わることなく、芦生の森と関わり続ける

 父の遺した山林を整理するため、40年ぶりに故郷に戻った男が、予期せぬ事故に遭い、奥深い山の中で謎多き6人の女性たちに助けられ、軟禁される。果たして女たちの目的は? 男は山で何を目撃するのか。
 
 石橋義正監督の『唄う六人の女』は、勅使河原宏の傑作『砂の女』、あるいは市川崑の『黒い十人の女』のように、ミステリアスな女性に軟禁される男という物語から始まるが、話が進むに連れ、ダンスパフォーマンス、サスペンス、ホラー、アクション活劇といった様々な要素が入り込み、最終的には人類と森の関係性とは何かという壮大な題材に行き着く。それだけに撮影地となる森は、主人公の萱島を演じる竹野内豊の言葉を借りると「石橋監督の厳しい目で、こだわり抜いた場所」。そこが京都府南丹市にある芦生研究林である。京都大学フィールド科学研究センターが管理している日本でも有数の原生林を擁する場所だ。
 
 去る9月、撮影に協力した自然保護団体、芦生タカラの森の主催でトチの木の植樹に石橋監督と、劇中の“見つめる女”を演じた桃果が参加した。当日は南丹市の西村良平市長や、芦生の森の保全活動をしている森林組合、芦生タカラの森に所属するメンバーやその家族、地域の子どもたちが参加。秋晴れの中、劇中に登場するトチの大木にちなみ、10本のトチの木が植林された。

植樹を行う石橋義正監督と桃果 (C)2023「唄う六人の女」製作委員会
 前日には、山田孝之、キャストとともに地域の人向けのプレミア上映会「ONE NANTAN CINEMA FESTA」がるり渓高原で開催され、両日とも参加した小・中学生も。感想を聞くと「自分たちが守っている森が映画にでてきて嬉しかったし、また、森を守るという題材の映画で使われると嬉しいと思った」「今年は芦生の森はトチの実が豊作で、収穫するのにすごく大変だったけど、今日植えたトチの木もいつかそうなればいいな」と頼もしい言葉が戻ってきた。トチの名は十と千に由来がある実りのある木だが、生育がゆっくりで、花を咲かせるまでに30年以上かかるという。石橋監督は単に制作場所として利用したというだけでなく、教鞭をとる京都市立芸術大学の研究室を通して、今後も芦生の森との関係性を築き、人と自然の共生を、映画やアートを通して考えていくという。眼差しの長いプロジェクトについてインタビューをした。

――『唄う六人の女』を南丹市の京都大学フィールド科学教育研究センターの芦生研究林で撮影した経緯と、本日の植樹の活動に参加した経緯を教えてください。

石橋:京都大学フィールド科学教育研究センターの石原林長に撮影許可をお願いしたとき、今回は映画の興行という形で公開するんですが、この映画だけで終わるのではなく、今後の自分自身の活動として関わらせていただけないかとお願いしました。撮影に際しては、森の中に入るスタッフと機材は最小限にして、カメラを回すときにスモークなどは焚かない、そして、環境を破壊しないようにガイドをつけてほしいなど様々な条件が付きました。そのとき、芦生タカラの森の代表である鹿取悦子さんを紹介していただきました。

人物パートを撮り終えてから、一日、鹿取さんのガイドで森の実景を撮影させてもらったんですけど、そのとき、鹿取さんから次世代に森を引き継ぐ活動について伺う時間があり、それをきっかけに今回のトチの木の植樹の活動に参加することになりました。私は京都市立芸術大学で映像関係の研究室を持っていて、今年は自然と芸術とテクノロジーという題材に学生と取り組んでいるのですが、今後も芦生の森と関わりを持ち、芸術的な側面から何らかの取り組みができればと考えています。

映画『唄う六人の女』場面写真 (C)2023「唄う六人の女」製作委員会
――2010年代から近年、山や森を題材にする若い世代の映画人が増えてきている印象を受けている中、石橋義正監督の『唄う六人の女』が真打ちのように登場したと感じています。具体的には、沖田修一の『キツツキと雨』(2012)、鶴岡慧子の『過ぐる日のやまねこ』(2014)、菊地健雄の『ディアーディアー』(2015)、金子雅和の『アルビノの木』(2016)、『リング・ワンダリング』(2022)、甫木元空の『はるねこ』(2016)、速水萌巴の『クシナ』(2018)、河瀬直美『VISON』(2018)、福永壮志の『山女』(2023)など。配信系のドラマでいうと『ガンニバル』のような村のドラマも人気です。この流れをどう感じてられますか?

石橋:確かに多いなと僕も驚いているんですけど、『唄う六人の女』は他の作品とは若干切り口が違うかなと感じています。それは、本作は人を描こうとしているわけではない。この映画が主題とするのは、本来人が持っていた自然に対する感覚そのものなんです。村を描く作品というのは、やはりその共同体をなす人を描いていることですよね。僕が目指したのは、自然に鋭敏な感覚を持っていれば、自然豊かな山の地面の中にわざわざ人工物を埋めようとは思わないし、未来に対してどうなるのかわからないようなことをしないだろうと思う。特に、未来への眼差しを強くもっていて自然と触れるという感覚を取り戻す、それがこの映画で目指したことです。

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◆人間が想像力を働かせて聞こうとすると虫や植物の声も聞こえてくる

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