菅田将暉×黒沢清が語る『Cloud クラウド』裏話 海外映画祭では皮肉な出来事も
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黒沢:予想を遥かに上回った芝居と言っていいでしょうね。吉井は、先程申し上げたように曖昧だけれどもはっきりしている男で、演じるのは本当に難しかったと思います。無表情だったり、どっちつかずだったりと一筋縄ではいかない芝居だったと思うのですが、「これぞ曖昧」というのをずばり的確に演じられていました。矛盾しているようなのですが、吉井が持つ明確な曖昧さと、ピストルを扱うようになるまでの変化が手に取るように分かるんです。本当に表現力がある方なんだと実感しました。
――7月に発売された菅田さんのアルバム『SPIN』では、感情ではなく情景をテーマにし楽曲制作されたそうですが、とても映画監督的な作業だと感じました。脚本を咀嚼(そしゃく)し監督が求める以上の表現に落とし込むことができるのは、アーティストと役者の仕事が相互作用しているからなのでしょうか?
菅田:どうなんでしょう…。僕自身としては一生懸命に演じただけなんです。でも僕自身も曖昧なところがあって、適当で、「白か黒か」みたいなことが苦手なので、そういった素養が生きたのかもしれません。
――吉井と秋子の二人の生活の中でコーヒーミルが登場します。広い家に引っ越した後は、エスプレッソマシンに進化して、ノイズが出る物でかつ生活水準の向上を表すにあたってベストな選択だと思ったのですが、あのアイデアはどうやって浮かんだのでしょう。
黒沢:あんまり深い意味はないんですよ(笑)。キッチンにあるようなもので、場違いでデラックス感があり、猟銃でバーンと破壊したくなるようなものはないか…と考えてからの逆算でした。エスプレッソマシンって、お金がかかっていて、場違いな感じがするじゃないですか。金属でできているから、破壊すると面白いんじゃないかって。じゃあアパートに住んでいる時は、それを買うお金がないからコーヒーミルでガラガラ豆をひいていることにしましょうと。
――逆からの発想だったんですね。ところで、お二人とも手広い分野の仕事をコンスタントに続けている印象があるのですが、仕事の原動力はなんですか?
黒沢:「仕事をしている」と言っていただけるとそれはありがたいのですが、普通のサラリーマンほどは働いておらず、毎日朝から晩まで会社に行くということがありませんから、ものすごく仕事をしているという実感はないんです。ただ映画監督として気持ちいいのは、始まれば数ヵ月後には終わるということです。終わらないとなったら嫌になると思うのですが、スタッフや俳優が集まってわあっと仕事をして、それが終わったらまた次もやりたいなと思えます。次は、前と同じ人やちょっと新しい人が集まって、始まったら終わる。その繰り返しが仕事を続けていられる理由の根底にあるんだと思います。「次はこうやってみよう」「前と違った」「今度はこれだ」「前と同じことをもう1度やってみよう」という風に、終わるからリセットできて続けられるんだと思います。
菅田:無茶苦茶働くぞという時期もあったのですが、僕も、ここ数年はすごく働いているという実感はないです。この仕事で生活をしていこうと決めて、「修行だ。とりあえず場数を踏まなければ」という時もありましたが、それは自分のためだからできたんだと思います。働いているけど、働いている意識があまりないというか…。僕は現場が好きなんです。みんなで集まって、あれこれやっている時間は見ていても楽しくて…。作ることが結構好きなんだと思います。これが原動力かもしれません。
(取材・文:阿部桜子 写真:高野広美)
映画『Cloud クラウド』は全国公開中。