甲斐翔真、コロナ禍と共に始まった舞台人生 乗り越えた今、より楽しんで舞台に向き合える
――先ほどワイルドホーンさんの音楽が好きだとのお話がありましたが、ワイルドホーンさんの音楽の魅力はどんなところにありますか?
甲斐:言うならば王道なんです。音楽の作り方として、ソンドハイムのように役者が気持ち悪いと思うための技として巧妙に気持ちよくない音楽をわざと作ったりする作り方もありますが、ワイルドホーンの音楽はとにかく気持ちよくさせてもらえる。最初嘆くような始まりからだんだんと吐露して、最後はエクスタシーみたいな発散といいますか。観ているこちら側の胸に突き刺さるような旋律で、みんなが求めている王道なんですよね。
対決するシーンでの音楽もワイルドホーンの音楽の醍醐味ですね。ファンの方々も大好きだと思うのですが『二人の男』という楽曲では、今回対峙するラドゥー大佐がWキャストで加藤和樹さんと廣瀬友祐さんとお二方がいるので、その絡みも楽しみです。
――逆に、ワイルドホーンさんの音楽の難しさはどんなところにありますか?
甲斐:簡単そうに見えて王道って難しいんです。気持ちいい音楽が来るんですけど、それに乗っかるってすごく難しくて。音楽がよすぎるので、そこに役者が負けてしまう場合があるんですね。そこをうまく乗りこなすために、1曲の中の構成を、どれくらい感情を出して、どれくらい捻って、最後に解き放たれるかというのを役者が考えないとただのいい曲になってしまう。そこに中身を込めるのが俳優の仕事になるのですが、それが本当に難しいです。
――来年にはデビュー10周年を迎えられます。節目の年を前に菊田一夫演劇賞を受賞されるなどご活躍が続きますが、この10年を振り返るとどんな10年でしたか?
甲斐:デビューしたころは、まず舞台の方向に行くなんて微塵も思っていなかったんです。デビューからの5年はドラマや映画が主だったので、今のこの状況はまったく想像できていない未来で、不思議な気持ちです。一年一年、ひと月ひと月課されていく課題や壁、目標みたいなものに楽しみながらひとつひとつ向き合ってきた結果、今ここにいるという感じなんです。
――初舞台は5年前のワイルドホーンさんが音楽を手掛けられた『デスノート THE MUSICAL』です。初舞台の思い出はいかがでしょう。
甲斐:初舞台の『デスノート THE MUSICAL』は、舞台に立つ前はすごく緊張していました。でも最初のナンバーを歌い終わって袖にはけた時に、発狂するくらい楽しくて。そこから「俺はこの業界に向いているな」って思えたんですよね。いきなり2000人くらいの人の前で歌う経験なんてないじゃないですか。そこに心地よさを見出せたのは大きな収穫でした。あれを味わえなかったら、僕は今やっていないと思います。
――初舞台はちょうどコロナ禍の始まりだったんですよね。
甲斐:ある意味、僕の舞台での日常はコロナ禍だったんです。マスクをしながら稽古をして、それを普通のこととして3~4年やってきたのでこんなものなんだなと。でも、稽古場でもマスクが取れた時にはすごいな!と感動したんですよ。打ち上げもやったことがなかったのが、稽古場の稽古が終わっただけでも打ち上げするの!?みたいな(笑)。今日は公演ができても明日はできるか分からない世界線でずっとやってきて、でもそれが僕には普通だった。だからこそそんな状況が終わった今、より楽しんで舞台に携われている自分がいるのかなと思っています。