羊宮妃那が歩む役者の旅路 変わりゆく声に息づく“好き”の灯火
――この数年間を振り返り、ご自身の芝居観が変わった瞬間や、意識するようになったことはありますか?
羊宮:キャラクターの人生を大事にしたい。それが、きっと一番大きなきっかけだったと思います。たとえば、もし私が喋れなくなって、誰かに代弁してもらうとしたら。情けなくても、不格好でもいいから、私のことを第一に思って、心に寄り添ってくれる人が嬉しい。そう思ったんです。
最初の頃は、声を作ったり、「この言い回しのほうがかっこいい」「この声色のほうが可愛い、綺麗、耳馴染みがいい」といった理由で練習することが多くて。それを崩していく作業は本当に辛かったです。「下手な芝居しかできないと思われるんじゃないか」「この声しか出せないと思われるんじゃないか」という不安もありました。
でも改めて考えた時、「私は、私をよく見せたいのか」と自分に問いかけたら、答えは「絶対に違う」でした。演じる上で、たとえ演じている本人がどう見えようと、そのキャラクターに命を吹き込むことが一番大事。その子が何よりも優先されるべきだと思っています。その考えにたどり着いたことが、私の芝居観が変わる大きなきっかけになりました。
――声優として「裏方に徹する」というか。
羊宮:そうですね。さらに最近では、キャラクターとしてステージに立つ機会も増えてきて。以前は裏方として声や芝居を鍛えることに集中していましたが、今は表情の管理や、役を体に落とし込むことまで意識するようになりました。もう全身を役に委ねるような感覚で向き合っています。
そうして全力で向き合えるからこそ、この仕事をこれからも大切にしたいと思えるんだと思います。もちろん、苦しい瞬間や大変な場面もあります。それでも「やらない」という選択肢はなくて。やることが当たり前になっている自分を見て、ああ、やっぱり私は役者なんだなと、心から感じますね。
――羊宮さんのように、これからも自分の「好き」という才能を大事にしていきたいと思う読者のみなさんへ、メッセージをお願いします。
羊宮:もしこのインタビューを読んで、「自分も好きなことで頑張っていきたい」と思ってくださる方がいたら、まず伝えたいのは、才能はとてもシンプルでありながら、本当に難しい言葉だということです。私も最初からこの声や芝居があったわけではありませんし、もし今お仕事を辞めてしまったら、きっと1年後には同じようにはできないと思います。
つまり、1日1日の積み重ねが本当に大事なんです。どんなに綺麗な人でも、1年間何もしなければ、その輝きやオーラは少しずつ薄れてしまう。だからこそ、諦めそうになったり、才能という言葉に邪魔をされたり、「自分はダメなんだ」と思ってしまう瞬間もあると思います。私自身も、何度もそう感じてきました。
それでも歩みを止めずにいたからこそ、今、素晴らしい景色を見ることができています。もし私の「好き」が、誰かの「好きを貫いてみたい」という気持ちにつながったなら、それ以上に嬉しいことはありません。
(取材・文・写真:吉野庫之介)
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