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「妻夫木さんじゃなかったらできなかった」――妻夫木聡&窪田正孝、沖縄の歴史と魂に向き合う【映画『宝島』インタビュー】

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■魂の叫びだった――壮絶なコザ暴動シーンの裏側

――クライマックスのコザ暴動のシーンは、延べ2000人規模のエキストラが参加した壮大なロケだったそうですね。

妻夫木: もともとは千葉にオープンセットを組む予定だったのが、東宝スタジオでの撮影に変わって、最初は不安もありました。でも、監督は本当に、エキストラ一人一人に演出をし始めたんです。チーフクラスの助監督が3、4人いて、それぞれで芝居をつけていって。沖縄出身の俳優さんたちも率先して芝居をして、みんなを鼓舞していくと、エキストラさん一人一人にポッポッと命の炎が宿っていくんです。その瞬間を目の当たりにして、この暴動は「俺たちはここに生きているんだ」という魂の叫びだったのかもしれないなと、皆さんのお芝居から学ばせてもらいました。

妻夫木聡
実際にコザ暴動に参加された方に話を聞くと、「怒りという言葉以外のものがあった」「綺麗なカチャーシー(沖縄の伝統的な踊り)を踊るおばあがいた」とおっしゃるんです。監督が一人一人に命を吹き込んでいくのを見て、これはもう叫びだったんだなと感じました。最終的にみんなの命の炎が一つになって、ぶつかっていく。本当に生命力の塊を見せられて、感動しましたね。

窪田: 完成した作品を観て、やはりあそこに行くために全てがあったのだと感じました。歴史的に見てもすごく大きな出来事ですし、この作品でも一番フォーカスしていた部分だったと思います。想像でしかないですけど、本来の人間ってああなんだろうなと。当時の沖縄でアメリカ兵たちに虐げられ、女性は犯され、轢き逃げされる。それが当たり前の毎日で、何も言えない。ぶち切れるのは当然じゃないですか。そういうことが溜まりに溜まって、沖縄の魂、沖縄の声が一つになった。すごく必然だったのかな、というのはあのシーンでリアルに描かれていると思いました。

窪田正孝
■映画というものを通して、未来の形を少しでも変えられたら

――本作は二度の撮影延期を乗り越えての公開となります。この時間は、作品にとってどんな意味を持ったのでしょうか。

妻夫木: もう、信じるしかなかったですね。結果論でしかありませんが、僕は全てのことに意味があると思っています。今年の公開となり、戦後80年という年でもある。延期するたびに、逆に準備できる時間が増えていったんです。これはある意味、神様がくれた時間であり、「お前ら、もっとやれることがあるんじゃないか」という試練だったのかなと。全ては導かれてこうなったんだと思います。こんなに衣装合わせを何度もした作品はないですし、撮影初日を迎えた時は「ああ、この作品に携わっているんだ」という喜びがありました。

映画『宝島』場面写真(C)真藤順丈/講談社 (C)2025「宝島」製作委員会
窪田:本当に膠着状態が長く続いていたんですよね。ただ自分たち役者は待つことしかできなかった。その時間を逆にプラスに考えるようにはしていました。そして最終的にGOが出たとき、長い時間が空いていたのですが、最初に「この映画をやりたい」と思った気持ちに戻れたんです。だからこそ、撮影で沖縄に入ったときはすごく怖かった。水着なんかも持って行っていたのですが、怖くて沖縄の海に入れなかった。それぐらい自分でも気づかないぐらい、役との距離感が隣り合わせになっていました。それも少し時間が空いたからこその気持ちだったかもしれません。自分の役割も見直す時間になりましたしね。

妻夫木:最初延期になったとき、窪田くんはスケジュール的に撮影に参加できないかも……ってなったんだよね。

窪田:ありましたね。

妻夫木:あの時は正直「終わった」って思った(笑)。

窪田:結果論ですが、延期があったからこそ、この形で映画が届けられたんだなと言う部分は強く感じます。

――この映画を通して伝えたいこと、映画というメディアが持つ力についてどうお考えですか。

妻夫木: やはり映画を通してどう感じるかが大事なので、僕らの想いだけが先行してはいけないと思っています。特に今回、僕はコザという街に縁があり、沖縄に対する想いが強すぎてしまって、僕が最後にレイに投げかける言葉は、現代の人たちにも投げかけている言葉でもあるのですが、あくまでグスクとしての言葉として、自分の想いが乗りすぎていないか監督に何度も確認しました。僕らは演じるしかない。その中で、皆さんがどう受け取ってくれるか。過去は変えられないけど、未来は変えられる。映画というものを通して、未来の形を少しでも変えられる可能性があるなら、それはすごく幸せなこと。映画の力を、正直今は信じたいですね。

(左から)窪田正孝、妻夫木聡
窪田: 映画には、その時間だけ現実を忘れさせてくれたり、心を救ってくれたりする力が宿っていると思います。作り手としては、その力をどう使うか気をつけなければいけない。事実を捻じ曲げて伝えることもできてしまうんです。だからこそ、僕は作品選びをちゃんとしたい。一方で僕らは役を生きることが仕事。その結果、誰かに伝わるのであれば、それは映画が誰かの心に入っていった証拠になります。この作品は、これからの若い世代に観てほしい。妻夫木さんがご自身の足で全国を回ってこの映画を届けようとしている、その姿に突き動かされる人もいると思います。妻夫木さんじゃなかったらこの作品はできなかったと思うし、これだけの人は集まらなかった。そう感じています。

(取材・文:磯部正和 写真:山田健史)

 映画『宝島』は、9月19日より全国公開。

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