中村獅童、白無垢に込められた亡き母の思い 後悔を胸に映画『振り子』と向き合う

2013年末のある日の朝。中村獅童の母・小川陽子さんは白無垢をかぶりながら、寝ている獅童の部屋を横切った。母の姿を見てふざけていると思った獅童は、むやみに起こされた苛立ちもあって、きつい言葉で叱責したという。だが母の性格を考えた時に、それこそが母からの「結婚していいよ、幸せになりなさい」というメッセージだと気づいた。「なんて俺は鈍感なんだ。後で謝ろう」そう思っていた。しかし陽子さんはそれから3日後に急逝してしまう。
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「時間は取り戻せない」事を実感し、後悔の念を抱いていた獅童のもとに、あるオファーが届く。それが映画『振り子』への出演だった。原作はお笑い芸人・鉄拳によるパラパラ漫画。一組の夫婦(獅童・小西真奈美)の出会いから波乱万丈の日々を描く内容で、獅童の実感をそのまま書き表したかのような物語だった。「役者人生の中で、自分の気持ちと作品の中にある気持ちがリンクする作品に出会える瞬間がまれにある。『役作りは?』と聞かれるけれど、作ったというよりも、心の底にある自分の思いを秘めながら演じる事が出来た」と獅童は作品との運命的な出会いを振り返る。
荒々しくも“個性的”な役柄を演じる機会も多いが“普通の人”も実に上手い。映像の世界で仕事をする際には「歌舞伎役者という看板のスイッチを切りながら、常に新人の気持ち」で挑むそうで「映像作品は監督のもの。監督のイメージに近づけるような芝居をするのが僕の仕事。作品の色に染まることの出来る役者でありたい」と自らに課している。
「キャリアとか歌舞伎の舞台で得た体に染みこんでいるものは、すべて白紙に戻す。『俺は歌舞伎役者の中村獅童だ! 俺の芝居はこれだ!』なんていう風にはなりたくない。 僕としては今でも芝居はヘタだと思うし、現場ではモニターチェックもしない。監督がOKと言えば納得するし、監督が納得してもらうまで撮り直す。ジャッジはすべて監督に任せて、自分ではジャッジをしない。その潔さを忘れたくない」とスタンスを明かす。