中谷美紀「長く続けるはずではなかった」 “風まかせ”でたどり着いた境地
■楽しい時もつらい時も…「この仕事だけがすべてではない」という気持ちで
これまでの芸能活動を振り返ってもらうと「風まかせで生きています」とほほ笑む。
もともと女優になりたいという夢を持っていたわけではなく、スカウトされたことをきっかけにデビューを果たした。「成り行きと言いますか…アルバイト感覚で始めて、こんなに長く続けるはずではなかったんです」と笑いながら、女優人生の転機についてこう明かす。「19歳のときに、利重剛監督の『BeRLiN』という映画で初主演を務めさせていただきました。そのときに“演じるって奥が深くて、正解がないからこそ面白いものだな”と感じて、女優というお仕事に対して火をつけられたような感覚がありました。私は飽きっぽい性格なのですが、“これはもっと探ってみたい”と思いました」。
また日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した『嫌われ松子の一生』(2006年公開)との出会いも大きなものとなった様子で、「大変な撮影でしたので、終わったときには身も心もあまりに疲れてしまって。こんなに大変な思いをしたのならば、インドにも行けるのではないかと、20代最後の年にインドへ旅に出ました」と楽しそうに述懐。それは人生観を変える旅となり、「インドには、あらゆる価値観を持つ人々が一つの国に住んでいます。貧富の差も激しい国ですが、貧しいからといって不幸かと言えば、決してそうではないと感じる方にも会うことができました。価値観は一つではないことを学び、世界を見渡したら自分の悩みなんてちっぽけなものだなと感じることもありました。それは私にとって、大きな収穫」だと話す。
視野を広げると共に、「飛行機をダブルブッキングされてしまったり、言葉がわからない中であらゆる交渉をしたりと、“これを経験したのだから、もうなんでもできる! 怖いものなしだ”と思って帰ってきて」とたくましさも身につけたことで、「仕事にしがみつかなくなったように思います」と明かす。
「もちろんありがたく、楽しく仕事をさせていただいていますし、作品ごとに求められることも異なるので、毎回必死です。でも、“仕事だけがすべてではない”とも思っています。だからこそ、楽しめているのかなと。これは一度立ち止まったからこそ、見えてきたものかもしれません」としみじみ。年齢を重ねる中で一層「あらゆるものに執着しなくなっている」そうで、「“生きていればそれだけで十分”と思うと、失敗しても落ち込まなくなったり(笑)。若い頃は、ちょっとでもNGを出すといちいち落ち込んでいましたね。でも年々厚かましくなってきたのか、“完璧な人間なんていない”と気楽に構えるようになりました」と実におおらかだ。
キャリアプランにおいても、結婚生活においても、中谷美紀のキーワードとなるのは「一つの価値観に縛られず、自由であること」。芯の強さを持ちながらも、軽やかに人生の節目を超えていく彼女から、ますます目が離せない。(取材・文:成田おり枝 写真:伊藤彰紀<aosora>)
映画『総理の夫』は9月23日より全国公開。
スタイリスト:岡部美穂/ヘアメイク:下田英里