同性愛がタブーのモロッコ 「語るべきことがあるなら勇気は関係ない」マリヤム・トゥザニ監督『青いカフタンの仕立て屋』インタビュー
――ミナは末期の乳がんに冒されています。これは夫婦間の性の不在を象徴しているのでしょうか。
異性として愛されない事実はミナを長年、苦しめたでしょうが、病気は関係ありません。乳房切除手術も経験し、厳しい闘病生活の末に、彼女は死を受け入れました。私たち現代人はすべてをコントロールできると誤解していますが、ミナは世の中には抗えないことがあると気づいたのです。私はミナに病気をきっかけに夫を支配してきた過去を反省し、それまでとは違う行動を起こしてほしかったのです。
ミナは、ハリムがゲイである自分を受け入れ、自分を愛することで本当の幸せを掴んでほしいと願うようになります。ハリムが恥に縛られたまま生きることのないように、彼を苦しめる不快感から解放しようと、ミナは自分を支えてきた信仰に疑問を持ち、ハリムの再生を信じて死の間際に言葉を紡ぐのです。愛する人が、そのままの自分を愛すること以上に美しいことなど存在するでしょうか。これこそが愛です。
――ユーセフの登場は、ミナの嫉妬やハリムの欲望を明らかにします。
ユーセフはミナの嫉妬と夫婦の脆さを瞬時に察知できる、成熟した人間です。彼は自分の立ち位置を理解していて、夫婦を見守りながら自分の居場所を見つけていきます。
――このような映画をモロッコで制作するのは勇気が必要ではありませんか。
表現しなくてはいけないこと、語るべきことがあるなら、勇気は関係ありません。欲望や愛は、タブーやスキャンダルの対象ではないのです。他の国々と同じように、モロッコも同性愛を禁ずる法律を廃止するために立ち上がらなくては。
2023年6月7日がモロッコでの劇場公開ですが、モロッコで公開されることはとても嬉しく思います。必ずしも劇場公開で見せられるか確約されていたわけではなかったわけですから。(※モロッコ国内の成績はまだ分からない。フランスでは21万人動員。多くの国でトップ10入り)
マラケシュ映画祭では審査員賞を受賞、観客もポジティブな反応だったので嬉しかった。劇場公開が、不可欠となる話し合いをするきっかけになるのではないかと思っています。また、本作はアカデミー賞のモロッコ代表であり、国の助成金を得て、それがあって完成することができた。そのこと自体が、アートを通してもしかして通常語られなかったタブーとされていることについて、もっと話し合いたいんだという強い欲求があるんだと感じました。アート、シネマを通して、こういった扉を開き、話し合いを作るきっかけになることができると思うし、それがこれからの先の一歩に繋がっていくんだという風に思っています。
映画『青いカフタンの仕立て屋』は6月16日より公開。