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同性愛がタブーのモロッコ 「語るべきことがあるなら勇気は関係ない」マリヤム・トゥザニ監督『青いカフタンの仕立て屋』インタビュー

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映画『青いカフタンの仕立て屋』より
映画『青いカフタンの仕立て屋』より(C)Les Films du Nouveau Monde ‐ Ali n’ Productions ‐ Velvet Films ‐ Snowglobe

 臨月の未婚女性というモロッコのタブーを取り上げた『モロッコ、彼女たちの朝』(2019)で、モロッコの知られざる一面を日本に伝えたマリヤム・トゥザニ監督。最新作『青いカフタンの仕立て屋』では、戒律と法律が異性愛しか許さないモロッコ社会で真の自分を隠して生きる人々の存在に焦点を当て、ある夫婦の複雑な愛情表現を通し、愛したい人を愛し、自分らしく生きる美しい物語を描き出した。「わかりやすい形で2人の愛を表現したくなかった」と話す監督に、それぞれのキャラクターの描き方や、彼らならではの愛情表現について話を聞いた。

【写真】妻が最後にくれた勇気とは――『青いカフタンの仕立て屋』フォトギャラリー

 伝統衣装カフタンの仕立屋を営むある夫婦。母から娘へと受け継がれる大切なドレスをミシンを使わず、すべてを手仕事で仕上げる職人の夫ハリムは、伝統を守る仕事を愛しながら、自分自身は伝統からはじかれた存在と苦悩する。夫を誰よりも理解し支えてきた妻ミナは、病に侵され余命わずか。そこに若い職人のユーセフが現れ、3人は青いカフタン作りを通じて絆を深めていく。そして刻一刻とミナの最期の時が迫るなか、夫婦は“ある決断”をする―。

■「私たちは固定概念に縛られて生きています」

――ハリムとミナの間には奇妙な緊張感があります。

タブーをひた隠し、アイデンティティを失いかけているハリムは、世界と向き合えないか弱き存在です。彼は自分を守り、癒すために、仕立屋の仕事にすべてを捧げる人生を選びました。ミナは繊細な夫を守るあまり強くなりすぎて、2人は過保護な母親と世間知らずの息子のような関係になっています。しかし、ミナは自分がいなくなった後のハリムを心配して、独立させる最後のチャンスだと気づきます。

私たちは固定概念に縛られて生きています。ミナとハリムは一見すると奇妙な関係に見えますが、25年間の結婚生活で結ばれた深い絆があるのがわかりますよね。劇中の会話や視線に、2人ならではの愛情表現が見えたと思います。私はわかりやすい形で2人の愛を表現したくなかったんです。観客は登場人物が食事して、寝て、仕事する様子を観察することで、彼らの日常生活に少しずつ浸っていくのです。日々の生活にこそ、人生の特別な瞬間が隠れています。それをどのように感じ、発見し、学ぶのか。2人の暮らしを丁寧に観察することでにじみ出るものを映画にしたいと考えました。

――ハリムは男らしさとは対極にある存在ですね。

ハリムは真のアーティストですが、残念ながら彼の芸術性が評価されない世界にいます。今の職人たちはカフタンを大量に安く早く作って、儲けることだけに目が向いています。しかし、ハリムは純粋主義者であり、自分の芸術と技術を尊重する人物です。素材や生地、刺繍やコードのディテールにいたるまで目を光らせ、完璧な1枚を作り上げます。劇中で苦心していた青いカフタンの色がただの青ではなく、ペトロールブルーであり、他のブルーではないと客に釘を刺したように。ハリムは自分のこだわりが理解されないことに傷ついています。だからこそ、彼は狭くて好きなものに囲まれたアトリエにこもって、針を動かしているんです。仕事に関しては最大の理解者である妻に見守られながら、孤独に、情熱を持って生きているのです。

彼には社会と向き合う強さはなかったのですが、ミナの新しい愛を受けて少しずつ目覚めていきます。そこに、このキャラクターのパラドックスが存在します。やさしさの中に真の強さがあるのだと。誰もが伝統からの逸脱を避ける社会で、ついに彼は不条理と対決する強さを得ます。ミナへの愛と感謝を表明するために、タブーを破るまでに強くなるのです。

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■「愛する人が、そのままの自分を愛すること以上に美しいことなど存在するでしょうか」

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映画『青いカフタンの仕立て屋』予告

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