『SCRAPPER/スクラッパー』作家・ブレイディみかこ絶賛「この映画は何かに中指を立てている」場面写真一挙解禁
わたしが英国で保育士の資格を取ったときに、何度となくコースの講師に叩き込まれた言葉からこの映画は始まる。
「It takes a village to raise a child.(子供は地域で育てるもの)」
その有名な言葉にはいきなり打ち消し戦が引かれ、真っ向からそれを否定するような言葉が現れる。
「I CAN RAISE MYSELF THANKS.(私は自立しているから大丈夫)」
観る者がここで予感するのは、この映画は何かに中指を立てている、いやもっと上品な言葉で言えば、定説に意義を唱えた作品ではないかということだ。
その予感通り、「キッチンシンク」と呼ばれるタイプの英国の映画やドラマを見ている人々なら、『SCRAPPER/スクラッパー』はそのジャンルのイメージをひっくり返すものであることがわかる。
「キッチンシンク」とは、もともとは1950年〜60年代に英国で起きた文化運動のことで、映画やドラマの世界では、
それまで主流だった中上流階級の人々が主人公の物語ではなく、
労働者階級のタフな日常や貧困を赤裸々に描く社会的リアリズムの作品が「キッチンシンク」のジャンルとして確立された。
貧しい階級の日常や貧困を取り上げている点では、 『SCRAPPER/スクラッパー』も「キッチンシンク」と呼ぶことができる。
だが本作は、伝統的な「キッチンシンク」と明らかに一線を画している。
「『キッチンシンク』がいつも灰色である必要はない」ということを示しているからだ。
労働者階級の日常が悲惨な出来事だけで塗りこめられているはずがない。
どんな階層の人間の生活にも、笑いや他者との温かなつながりは存在している。
暗い灰色の「キッチンシンク」があるなら、ほっこりさせられるパステルカラーの「キッチンシンク」があってもいいのだ。
ステレオタイプに中指を立てることこそ、英国文化の伝統芸と言ってもいいのだから。
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