西島秀俊、9割英語のセリフに挑戦 『ディア・ストレンジャー』真利子哲也監督と初タッグで見せる新境地

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昨今、アカデミー賞で最優秀国際長編映画賞に輝いた『ドライブ・マイ・カー』(21/濱口竜介監督)や、A24制作のApple TV+『Sunny』(24)、新作映画『Enemies(原題)』など、海外制作の作品でも活躍の場を拡げている俳優、西島秀俊。真利子哲也監督と初タッグを組んだ最新作『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』(公開中)では、9割英語のセリフにも挑戦した。本作は、息⼦の誘拐事件をきっかけ崩壊していく家族を描いたヒューマンサスペンス。ニューヨークの大学で建築学の教鞭をとり、震災の記憶から廃墟の研究に取り憑かれている主人公・賢治を演じた西島が本作で見せた新境地を深堀りする。
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■「ぜひチャレンジしたい脚本」
本作でメガホンをとった真利子監督は、西島について「西島さんは、日本映画に携わる者としてご一緒したいと思う俳優でした。初めて西島さんに魅了されたのは、諏訪敦彦監督の『2/デュオ』(97)での存在感。また、アミール・ナデリ監督の『CUT』(11)で演じた映画への愛と狂った気迫は理屈だけではなく、心臓を掴まれました」と述懐。そして「西島さん自身が持つ優しさや、自分の弱さをわかっているからこそ傲慢さも演じられる方なのだろうと感じられる部分がありました」と賢治役への起用理由を語る。また、初対面の時から映画の話で盛り上がり、その無邪気さにも魅力を感じたという。
オファーを受けた西島も「真利子監督とは一緒に仕事がしたいとずっと思っていました」と語る。「『ディストラクション・ベイビーズ』(16)を観たときに、「見たことのない作品を撮る監督が現れた」と衝撃を受けたんです。今回の脚本も、物語が進んでいく中で、監督にしか撮れない暴力性やサスペンスが描かれ、監督の美学や哲学を感じました。また、僕たちはこの10年で日常というものが簡単に壊れてしまうということを何度も体験してきたわけですが、本作では、その中で日常……というか人生をどう取り戻すのか?ということが描かれていて。ぜひチャレンジしたい脚本だと思いました」とオファー快諾の決め手を明かす。
■9割英語のセリフに挑戦
映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』場面写真 (C)Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.
チャレンジと言えば、9割英語のセリフに挑戦している西島。監督としては、俳優に大きな負担をかけることになるため、辞退されることも覚悟の上でオファーしたが、西島から「完璧ではないですけどいいですか?」と言われ、その懐の深さにも感銘を受けたという。
当の西島も「賢治は“英語がそれほど堪能ではないけれど、研究内容が評価されつつある助教授”という役柄。なので、ネイティブである必要がなかったこともありますが、“映画を撮る”という共通言語があって、それは世界中どこへ行っても変わらない。みんなが監督をリスペクトして撮影するという同じ方向を向いていましたし、改めて海外の企画でさまざまな国の人が集まることは挑戦のしがいがあって、豊かな時間を過ごせました」と振り返る。
■真利子監督ならではの乱闘シーンに「美学を感じた」
また、『ディストラクション・ベイビーズ』(16)や『宮本から君へ』(19)など、これまで肉体と肉体がぶつかり合う身体的な暴力を描いてきた真利子監督。無類のシネフィルとしても知られる西島は、本作で、賢治が誘拐事件の真相を追う中で出会った謎の男ドニーと対峙する乱闘シーンのカメラワークに言及する。
「通常、乱闘シーンは2人の間にカメラが入って撮影することが多いと思うのですが、真利子監督はあくまで“引き”の画で撮るんです。監督の作品に通底しているのは“剥き出しの暴力性”。今回のシーンも、かっこいい部分は一切なく、ただ2人の男が殴り合っているという生々しさがある。そして撮影中、一連の乱闘の中でカメラが段取りとは違う動きになってしまった時も、監督は『逆にそれが良いんだよ!』とおっしゃっていて、ワンテイクでOKが出ました。このシーンに限らずですが、緻密に計算し尽くすのではなく、その場で偶然生まれたものを常に追求しているところに真利子監督の美学を感じました」。
同シーンについては、監督も「賢治もドニーもケンカには慣れていない。泥臭くて必死な闘いに見せられたらと思っていました。リアルだからこそ滑稽に見えるようなケンカでなくてはいけない」とこだわりを明かしている。西島が体現する生々しいアクションに対して、カメラの動きはまるで我慢するかのように最小限に抑えられていて、客観性と主観性が同居するまなざしが印象に残る。
真利子監督の真骨頂とも言うべきアクションシーンに西島がどう挑んだのか。スクリーンで確かめてほしい。
映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』は公開中。