佐藤健の破壊力を再確認 『First Love 初恋』で見せた新たな魅力と進化
彼が本作で演じた晴道(20代半ば~30代:佐藤、10代~20代前半:木戸大聖)は、北海道で暮らす警備員。航空自衛隊のパイロットになるも退官し、現在はセキュリティ会社に勤める身で、とある理由から離ればなれになってしまった初恋相手で恋人の也英(20代半ば~30代:満島ひかり、10代~20代前半:八木莉可子)のことが忘れられないでいる。しかし、彼には恒美(夏帆)という恋人がおり、結婚の話も出ていた。そんなある日、晴道は也英と運命的な再会を果たすのだが…。
宇多田ヒカルの「First Love」「初恋」にインスパイアされたとおり、本作で描かれるのは“初恋”だ。ただ、ごくごく一般的な「おっ久しぶり!」という再会ではなく、晴道と也英の間には心痛な試練がいくつも畳みかける。しかも「久々に再会した元・恋人は●●だった」という情報が事前に開示されるのではなく、話数を重ね、也英と晴道の過去と現在が交互に描かれるなかで少しずつ明かされていくという仕掛けが施されており、我々視聴者は現代パートの「タクシーを運転する也英を見つけて衝撃を受ける晴道」「呆然とした表情で涙を流す晴道」等の表情から「何かがおかしい。ひょっとして……」と推察していく。要は、佐藤の“反応”の演技が、物語の序盤の核を担っているのだ。
Netflixシリーズ『First Love 初恋』より
あえてセリフで語ることなく、登場人物の表情から物語っていく構造となれば、役者に求められる責任は当然増すもの。視聴者も重要な手がかりとして一挙手一投足に目を凝らすわけだが、佐藤の微に入り細を穿(うが)つ繊細な感情表現が大きく貢献している。特に第2話の也英との再会シーンはほぼセリフがないのだが、驚く→喜ぶ→呆然とする、ショックを受けて肩で息をする→作り笑いを浮かべるも耐えきれず涙がこぼれるという佐藤の見事な(それでいて流れるような)芝居によって、作り手の構造的な意図を凌駕する屈指の名場面に仕上がっている。
元々こちらのシーンは、観る側を「え、なんで? どういうこと!?」と混乱させ、続きを見たくさせるような役割を担ったもの。真相を知ってからもう一度観ると、すべて腑に落ちるという装置でもあるが、どうしても“あざとさ”が出がちなシーンにもかかわらず、佐藤の表現力によって気にならないどころか没入させられてしまうのは、演出サイドからすると嬉しい誤算だったのではないか。役者・佐藤健のひとつの武器として、身体と感情の表現における連結が突出している点――つまり、心の揺れや動きがダイレクトに身体に現れる上手さ、逆に言えば「こういう感情を示すために自在に身体を操作できる」ところがあるが、そのポテンシャルが最大限発揮されたシーンといえるだろう。