『silent』想と家族の“恐怖、不安、つらさ”…乗り越えた先の「ありがとう」の美しさ
川口春奈主演、目黒蓮共演によるラブストーリー『silent』(フジテレビ系/毎週木曜22時)の第9話が放送され、高校卒業後、聴力を失っていく自分を前に青羽紬(川口)との別れを決めた佐倉想(目黒)の、当時から現在までの時間が、ゆっくりと丁寧に描かれた。
【写真】“恐怖、不安、つらさ”を乗り越える佐倉家の面々 『silent』第9話を写真で振り返り
想が中途失聴者であることは、ドラマを見ている人はみな知っている。しかし、第1話で紬の前にふたたび現れた想はすでに聴力を失っており、聞こえていた状態がだんだんと聞こえなくなり、ほぼ聞こえなくなったその瞬間について、私たちは分かっていなかった。
どんどん世界が閉ざされていく恐怖に、「耳が聞こえないって言わないで」「まだ聞こえてる」と拒んでいた想だったが、症状は進み、イヤホンや補聴器ではなく「(自分の耳)こっちが壊れたのかな」と、失聴を認めざるを得なくなる。
声を出す機能は失われていないはずの想が、自分の声で会話をしない理由は、第7話のラストで怖さによるものだと明かされていたが、喪失の時間をこうして真正面からはっきりと描くことで、そのとき想の感じた恐怖、不安、つらさが痛いほどに伝わってきて胸がつぶれる思いだった。感動させるためのエピソードではない。私たちも萌(桜田ひより)たちと一緒に、その場に立っていた。
今では「話せなくなるって思ってたことが勘違いだった」と言えるまでになった想。周囲から「全然変わってない」と見えるまでに、想や母(篠原涼子)、父(利重剛)、妹、姉(石川恋)のそれぞれが、時間をかけて多くのことを乗り越えてきたのだ。特に母・律子はギリギリの状態だった。だからこそ、想から「ありがとう」と伝えられたとき、想も伝えられた律子も、ともに美しかった。
想と紬ふたりにとって大切な存在の「音楽」と想の再会も描かれた。そうなのだ、歌は詞(言葉)でもあった。『silent』は、初回から「言葉」を見つめてきたが、改めてハッとさせられた。繊細に、明確に言葉を紡ぎながら、同時に受け取るひとりひとりに委ね続けているスピッツ・草野マサムネの詞であることも、より説得力を持たせている。
さまざまなことが動き出し、「大丈夫」と言って逃げていた想が、「話せなくなるって思ってたことが勘違いだった」と笑顔で言えるようになった。しばしば“大丈夫”とは、実際には全く大丈夫ではない状態にある人が、外にも、自分自身にも張るバリアのような言葉だと言われる。だが第9話では、ゆっくりと、ポジティブな“大丈夫”になっていけることを示した。
「手話できなくても大丈夫だよね」と話しかける光に、CDを整理しながら応える紬の「大丈夫、大丈夫」には、包み込むような温かさと強さがあった。つらさからも目を逸らさない作品だからこそ、そうした言葉が、すぐ隣で語り掛けてくるように私たちにも入ってくる。(文:望月ふみ)