ソニーの作戦はあり得ない? “F1ガチファン”に聞いた映画『F1(R)/エフワン』の感想が面白すぎた<前編>

現在公開中の映画『F1(R)/エフワン』。最下位チームに雇われたベテランドライバーが、若きチームメイトと衝突しながら勝利を目指す熱いドラマと、圧倒的迫力の映像、そして電撃来日も話題となったブラッド・ピットのかっこよさが大きな話題を呼んでいる。しかし、F1の世界を長年見続けてきた“ガチ”のF1ファンは、この映画をどう見たのか。 今回は、F1ファン同士がつながれるファンサイト「みんなでFトモ」を立ち上げ、“日本一、役に立つF1ファン”を目指して日々情報を発信している鈴木淳史さんに話を聞いた。ガチファンならではの視点は驚きの連続!(聞き手=映画好きが集まるネット生番組「共感シアター」ディレクター・稲生D)※本文に映画のネタバレを含みます。ご了承の上、お読みください。
【写真】イギリスGPで撮影中のブラッド・ピットがかっこよすぎる!
■ソニーの作戦は「現実ではあり得ない(笑)」
稲生D:まずは映画をご覧になった感想を教えてください。
鈴木:今回の映画はF1ファン向けというより、F1を知らない人が興味を持つきっかけになればという思いで観ました。同じところをぐるぐる回ってクラッシュして…という印象しか知らない人にも、F1の裏側――レース前後の混沌や、政治・経済・科学との結びつき、そして友情などのドラマにも踏み込んでいて、ファンにも初心者にも楽しめる丁寧な作りだったと思います。単一な見せ方ではない点がとても良かったですね。細かいところは色々ありますが、全体的にとても楽しめました。
稲生D:その細かいところを聞かせてください(笑)。劇中には9レースが登場しました。レースシーンで気になる点はありましたか。
鈴木:いきなりクライマックスの話で恐縮ですが、最後のアブダビGPのラスト3周が圧巻の大迫力で興味深かったです。それ以外のレースシーンでも、本物のF1カーが走っている映像をAPX GPのマシンに差し替えたようなシーンが多々あって、「これ、ハミルトンがルクレールを抜いたところだよな」とか、「これ、多分ガスリーがフロントウィング踏んだとこだよな」とか、つい余計なことを考えながら観てしまいました(笑)。
映画『F1(R)/エフワン』場面写真 (C)2025 WARNER BROS.ENT.ALL RIGHTS RESERVED.
稲生D:実際の観戦経験に基づく情報処理が入ってしまうんですね(笑)。映画ではブラッド・ピット演じるソニーが、セーフティカー(※1)やバーチャル・セーフティカー(※2)、レッドフラッグ(※3)を利用する作戦に出ますが、これはいかがでしたか。
鈴木:ルールをすごく簡単に言うと、これらが出るとコースが危険だから追い越し禁止となり、超スロー走行する必要があったりレースが中断となります、なので車間のリードが詰まったりリセットされちゃうんです。わざと今このタイミングでクラッシュしたらチームメイトが得するとか、そういう瞬間は実際あるんです。もちろんそれはスポーツマンシップに反しますし、厳罰が待っています。2008年シンガポールGPの「クラッシュゲート事件」では、故意のクラッシュでフェルナンド・アロンソ(当時ルノー所属)が優勝し大スキャンダルになりました。今のF1ではペナルティポイントが付くようになり、累計点数を超えると一戦出場停止になったりします。おそらくソニーはあのレース1回で出場停止ですね(笑)。
しかも無線で“わざと”を匂わせるような発言もしています。現在無線は中継に流すために全公開されているので秘密ではありません。無線を利用して、わざとピットインすると言いながらしないとか、そういうブラフ作戦もあります。映画でソニーが「おっと、いけねえ」とか言いながら当てに行くのは、実際のF1では間違いなくペナルティを食らいますし、SNSが大炎上します(笑)。
※1 コース上に事故車や破片があるとき、安全確保のためにセーフティカーが導入される。
※2 事故やコース上に何らかの危険があり、コース全区間で減速を強制する仕組み。セーフティカーが出るほどではない場合に使われる。
※3 旗の色でレース状況を示し、赤はレース完全停止の合図。ピットレーン出口が閉鎖され、ドライバーは徐行で直ちにピットイン。追い抜き禁止。
※4 3度のワールドチャンピオンに輝いたアイルトン・セナは、1994年5月1日のサンマリノグランプリのレース中、マシンが壁に激突し34歳の若さで事故死した。