2025年北米を席巻した日本アニメ映画――『鬼滅の刃』と『チェンソーマン』にみる戦略の違い
『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』は10月末に劇場公開されたのに対し、デジタル配信が12月9日から開始された。つまり、“劇場限定”期間はわずか約1カ月なのだ。Apple TV(iTunes)、Amazon Prime Videoなどの主要プラットフォームで、北米をはじめとする複数国(フィリピン、タイ、ウクライナで1位、米国、カナダ、欧州各国でトップ5入り)でチャート上位を記録。12月というホリデーシーズンは、通常ハリウッド大作映画(『ジュラシック・ワールド』最新作やマーベル映画など)がチャートを独占するのに対し、その中でR指定外国語アニメ映画が1位を取ることも、やはり異例なのである。 (※FlixPatrol調べ)
デジタル配信(VOD:レンタル・購入)の具体的な売上金額や再生回数は、スタジオ側(Sony/Crunchyroll)から公式に発表されることがほぼないが、1位を取った事実だけでも数百万ドル〜数千万ドル規模の売上が短期間で発生していることが示唆される。通常、北米でトップを取る作品は、1週間で数十万件以上のダウンロード(購入・レンタル)が行われているからだ。
なぜ、こんなにも早くデジタルリリースをしたのか。それはおそらく、作品とネットの相性の良さを見込んだ上での戦略だろう。本作はアニメ放送時からYouTube上でのリアクション動画がかなり多く投稿され、再生回数を稼いでいた。そして12月9日の劇場版デジタル配信直後から、同作のリアクション動画が同じように投稿され、盛り上がりを見せている。血みどろな大人向けの内容とアクションの迫力が圧倒的な本作において、鉄(バズ)を熱いうちに打ち直す、という戦略はかなり重要だったように感じる。
一方で、対極的な姿勢を見せたのが『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』だ。なんと、本作のデジタル配信は2026年以降の予定ということで目処すらしっかり立っていないのだ。 これは初期段階での爆発的な興収記録を考え、劇場独占公開に絞る、その“限定性”でさらに興収を伸ばす戦略なのだ。
『チェンソーマン』が、旬が過ぎる前に、熱量をそのままSNS拡散(リアクション動画等)へ繋げ、デジタル販売で回収する「短期集中型」なのに対し、歴史的ヒットのため、急いで配信する必要もなく劇場での(単価が高い)収益を極限まで搾り取る「長期(ロングラン)型」の『鬼滅の刃』。ファンの行動としても、前者は「劇場で見逃したから配信で観る」「シーンごとに停止して細かく観たい」という層が、後者は「配信がないから、もう一度劇場に行くしかない」層がリピートし、興収をさらに押し上げる仕組みになっている。
まさに圧倒的なブランド力で劇場に客を縛り付け、デジタルを封印することで興収を最大化する“王道のブロックバスター戦略”なのは『鬼滅の刃』だが、現代的なヒットモデルは、迅速なデジタル展開で、SNSのバズと連動し、数千万ドル規模のデジタル収益を上げている『チェンソーマン』と言えるだろう。全く異なる戦略ではあるが、そのどちらもが今、日本のみならず北米の興収を賑わせていることは間違いなく、日本アニメ映画が北米市場で「主要な商品」として扱われていることを証明している。
今後さらに、日本発のアニメ作品の重要性は高まるはず。2026年のバズや動向にも注目したい。(文:アナイス/ANAIS)
※興行収入は主にBox Office Mojoを参照。

