初週の苦戦は「安定感」!? 朝ドラ『ひよっこ』の魅力と今後への期待
しかし、この役のために体重を増やしたという有村の「明るいタヌキ顔」と「モンペ姿」「セーラー服姿」は、絵に描いたような“朝ドラ”ヒロインとして誰にでも愛される要素で安心感があるし、質素ながらも、しっかり量のある農村の朝食や、東京の洋食屋のご飯は、どちらもすごく美味しそう。
また、「今朝は鶏が卵を5個産んだから、お弁当に一個入れられる」「夜の家族会議に参加して、初めて大人として認められた気分になる」「みんなで稲刈りして、田んぼの土に足をとられるなどしつつも、女たちが歌を歌う」といった「日常の小さな幸せ」が丁寧にほのぼのと描かれる。ドラマチックなことは何も起こらないのに、昼間の鳥の声も、夜の虫の音も、湿度やニオイが伝わってくるような夜の土の質感も、不思議と観ていて心地よい。
それだけに気になるのは、ヒロインが上京するきっかけが、初週のほのぼの世界観と相容れない、「父の失踪」という『まれ』を思い出させるようなわかりやすいドラマチック要素であること。「父や親友など、好きな人がみんな東京に行ってしまうから、東京がちょっと嫌い」くらいで、誰にも何にも大きな否定感も希望・野望も持っていないヒロインが、いかに「卵の殻を破る」のか…。
上京してからが本格的な物語の始まりだが、初週の「何も起こらないほのぼのした幸せ」との食い合わせがどうなるのか、見守っていきたいところだ。
<文:田幸 和歌子>
出版社、広告制作会社を経てフリーライターに。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)がある。