『まんぷく』松下奈緒が演じる次女・克子 現代にこそ輝く生き方
でも、「正しさ」や「常識」だけを軸に生きる人生は、ときに窮屈で、けっこうしんどい。しかも、それが身内や大切な友人などの場合、誰にも頼らず、つらい顔をして我慢して生きるより、頼ってもらうほうがうれしいことはある。申し訳なさそうに「ごめんね」と言われるより、明るい笑顔で「ありがとう」「助かるわ」と言われたほうが、気持ちが良くなることもある。
しかも、「自由」で「気楽」なだけじゃない。福子と二人暮らしになることを不安に感じる母に対し、「大丈夫よ。福子、しっかりしてるから」と言い、姉が結核で入院してしまった際にも「大丈夫」と明るく言う。心配性の母はそんな克子に、軽々しく大丈夫などと言わないでと怒るが、みんなが沈み込むばかりのときに「大丈夫」と言える存在は、やっぱりありがたい。
そして、姉がいよいよ余命わずかと医師に宣告されたとき、涙で顔を腫らし、何も言えなくなる妹に対し、「ちゃんと話すわ」と母に先の容態を告げる克子。自由気ままに見えて、やっぱり「お姉ちゃん」なのだ。
そして、涙を流す母、妹の前で、自分は涙を見せないのに、家に帰ってから夫の前で初めて涙を見せる。
夫・忠彦は、何も語らないながらも、克子の大切な姉・咲の結婚式には絵を贈り、また、結核で入院した咲の病室が殺風景だからと、桜の花の絵を贈る。おそらく忠彦は、咲がもう花を見られないかもしれないことに気づいていたのだろう。
そんな夫だからこそ、甲斐性はないが、克子は信頼し、甘えることができ、「幸せだ」と断言できるのだろう。
ともすれば自分勝手で自由でドライで、母との仲が悪いキャラとして安直に大げさに描かれかねない次女・克子のポジション。しかし、脚本・演出の巧みさと、松下のおおらかで上品な雰囲気により、愛情深く、気丈で、たくましく魅力的な女性として存在している。(文:田幸和歌子)