『MOTHER』ゲーム芸人フジタが紹介 お約束を破りまくる名作の、心に刺さる言葉
■エスカレートする悪意、その本心は…
ゲーム『MOTHER2 ギーグの逆襲』プレイ写真(C)1994 Shigesato ITOI / APE inc. (C)1994 Nintendo
『MOTHER2』には、主人公の幼なじみのポーキーという太った少年がいる。
このポーキー、序盤はちょっとずる賢いだけのお隣さんなのだが、ゲームの進行とともに悪行がエスカレートし、最終的にラスボスとともに本気で主人公たちを亡き者にしようと襲いかかる。『MOTHER3』でも次元を越えて登場し、「ブタマスク」という集団を率いて主人公たちを苦しめる手に負えない悪役だ。
しかし、マジカントに登場するポーキーは「ネス、おまえはいいよな…。なんかおまえのこと、うらやましいよ…。おれなんかダメさ。だけど、ネス…ま、いいよ。いつまでもなかよくやっていこうぜ、な」とつぶやく。
マジカントは主人公の心を写した場所(初代のマジカントとは異なる)なので、これは主人公の「こうであってほしい」と願う気持ちの表れなのだろうが、もしかしたらポーキーは主人公への友情やコンプレックスを感じていたのかもしれない。
■母の言葉
ゲーム『MOTHER3』パッケージビジュアル(C)2006 SHIGESATO ITOI / Nintendo Sound:(C) 2006 HAL Laboratory, Inc. / Nintendo
最後は、タイトルにもなっている主人公の母の言葉。
『MOTHER2』のママは、ホームシックになった主人公が電話すると、「ママのセクシーでステキなこえをきいてげんきになりなさい」と元気付けてくれる。そして、すぐに「…なった? なったわね。じゃ、アイロンをかけてるとちゅうだから。バーイ♪」と、やたら軽いノリで電話を切ってしまう。
ほかにも「じゃ、いまバーベルあげてるところだから」「じゃ、テレビのドラマがいいところだから」と、苦難の旅を続ける主人公からの電話をしょうもない理由で切りまくる陽気なママ。しかし8つのメロディを全て集めると始まる回想シーンでは、生まれたばかりの主人公に「えらいひとやおかねもちにならなくてもいいけど…おもいやりのあるつよいこにそだってほしいわ」と愛情たっぷりの言葉をかけてくれる。
『MOTHER3』の母ヒナワも外せない。彼女は序盤で命を落としてしまうのだが、ラストバトル中に「クラウス…クラウス…もうおかあさんのところにおいで」「つかれたでしょう。おいで、クラウス」と天国から呼びかける。クラウスとは行方不明になった主人公の兄で、ブタマスクたちに改造・洗脳されて主人公と戦うのだが、息子たちが殺し合うのを見ていられなかったのだろう。
何より「おかあさんのところにおいで」というのが悲しい。作中でクラウスがもう助からない(もしくはすでに死んでいる)と明言されることはなかったと思うが、息子が助かるならこんなセリフは出てこないはず。直前に戦ったポーキーも「いのちのかけらもありゃしない」と匂わせていたし、切ないけれど優しい言葉だ。
好きな言葉はまだまだあるが、長くなりすぎるのでこのあたりで。ちなみに、筆者のマザーは5歳の時に亡くなり、それ以降はファミコンが親代わりのような少年時代を送っていたので、初代『MOTHER』には母親に近い感情がある。
現在開催中の「ほぼ日『MOTHER』プロジェクト」でトリビュートコミックが発売され、12月にはシリーズの全セリフを収録した本が作られることも決定した『MOTHER』シリーズ。心に刺さる言葉が本当に多いので、「おとなもこどもも、おねーさんも」触れてみてはいかがだろうか。(文:ゲーム芸人フジタ)