恋愛ドラマにハマれない人こそ夢中になる『大豆田とわ子と三人の元夫』の魅力
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■細かいシーンの描写で伝わる「とわ子」のキャラクター
たとえば、3番目の夫(岡田)は、とわ子との結婚後、3度にわたって司法試験に失敗。当時は「主夫」として会社員のとわ子を支えていたが、仕事で成果をあげるとわ子に対する後ろめたさや周囲の視線などが気になり、苦しい現実から逃げ出すように離婚に至る。そして、ついに合格を果たしたときには、応援してきたとわ子は、もうそばにいないのだった。
また、2番目の夫(角田)は、スキャンダル専門カメラマンとして、野球選手の不倫相手に近づくために潜入した社交ダンス教室でとわ子と出会い、結婚に至るが、離婚の理由として「彼女のしゃっくりを止めてあげることができなかった」と語る。これは、2番目の夫のご近所の主婦たちに声を掛けられ、離婚したことを話せず、ウソをつくたびしゃっくりをしているシーンとつながっているのだが、噂話の中でとわ子が義母に嫌われていたこと、嫌がらせをされていたことなどがわかり、なんとも切ない気分になってくる。
噂話に応援し、面白おかしく離婚したことや義母の悪口を言うことだってできるのに、とわ子は決してそれをしない。だからと言って、ただ我慢して全てを飲み込み続けることができるほど“大人”じゃないだけに、笑顔でしゃっくりが出てしまう。
■真に愛おしいのは「とわ子」だ
こうしたスタンスは第3話で描かれた、とわ子の「社長」業にも共通している。
とわ子は前社長に後継を託されただけで、本来は「建築士」だ。そのため、若手の優秀な建築士(神尾楓珠)の設計に感動するが、社長という立場上、採算度外視のプランを商品として採用するわけにいかず、それによって社員たちから反発され、孤立してしまうのだ。
これに関しては建築家(神尾)本人が大豆田の思いを理解してくれていたことが後にわかり、そこに救いはあったが、決して弱音を吐かないし、誰かのせいにしないし、きちんと憎まれ役を引き受けてみせるとわ子がなかなか切ない。
思えば、「バツ3」になってからもなお、インチキ臭いイケメン詐欺師(斎藤工)にだまされそうになるような無防備さがあるし、恋愛に奔放どころか、繊細で真っすぐゆえに、どこかダメな人たちと共鳴してしまうのではないか。
後に2番目の夫となる社交ダンスのパートナー(角田)が、かつて告白したらしい女性に目の前でこきおろされると、黙っていられず、その女性に嫌味を言ってみせる気の強さはあるのに、自分自身のこととなると、実に臆病だ。
会社でも、高級カレーパンを食べる社員たちを横目に、1つ余ったモノを「好きじゃないけど」と言いながら食べようとする社員がいてもなお、自分から「欲しい」とは言えないとわ子。すれ違った女性のカバンがカレーパンに見えるくらいに食べたかったのに、それでも物欲しそうな素振りは見せることができないとわ子。この作品を観ていると、「美人」とか「社長」とか「バツ3」とかの表層部だけで、勝手に他者の物語を分かった気になってしまうことがいかに愚かかを、改めて感じてしまう。
とわ子の母が、自身が離婚した理由について「私は1人で大丈夫だと思われるのよ」と語ったのに対し、「私は1人で大丈夫だけど、大事にもされたい」と答えた少女時代のとわ子。
最初は「1番目の夫と3番目の夫がどちらも好み過ぎる」とか「1番目が最強」「3番目が可愛すぎる」「2番目の夫、すごく優しくて良い奴」などと、3人の夫たちを観ている視聴者も多かっただろう。しかし、気づくと一番気になるのは、一番愛おしいのは、どう考えても大豆田とわ子。
大事にされたいと思いつつも、着々と一人で大丈夫の道を歩みつつある大豆田とわ子の幸せを心底願ってしまうのだ。(文:田幸和歌子)