「本当に良いゾンビ映画を20年近く観ていない」 R18+ホラー『哭悲/THE SADNESS』監督が語る制作の裏側
凶暴性を助長するウィルスに侵された感染者たちがありとあらゆる残虐行為に走るというストレートな設定と、容赦のないバイオレンス表現で世界のジャンル系映画祭を席巻したR18+ホラー映画『哭悲(こくひ)/THE SADNESS』。監督・脚本・編集を務めたのは、カナダから台湾に移住し創作活動を行う映画監督・アニメーターのロブ・ジャバズ。本作が長編映画デビューとなった彼が、制作の裏側について語った。
【写真】暴力に支配された世界…! 『哭悲/THE SADNESS』場面写真
■本当に良いゾンビ映画をもう20年近く観ていません
――台湾にはいつから滞在しているのですか?
ジャバズ監督:私が25歳の時に台湾に引っ越しました。当初は1年のみ滞在する予定でしたが、気づけば15年経った今もこうして台湾にいて、映画を製作しています!
――本作が長編映画監督デビューとなりましたが、制作したきっかけは?
ジャバズ監督:きっかけは、まぎれもなくコロナウイルスの流行です。ハリウッドのプロダクションが閉鎖され、多くの映画が公開延期となり、台湾の映画館にも上映できる新作が無い状況でした。ならば映画を作ろうということになり、描くならパンデミックしかないと思いました。その時に観客が最も知りたい内容だという確信があったからです。
映画『哭悲/THE SADNESS』より (C)2021 Machi Xcelsior Studios Ltd. All Rights Reserved.
――新しいゾンビ映画を作りたかったとのことですが、具体的アイデアはどのように獲得していったのでしょうか。
ジャバズ監督:単純に、少し退屈だと感じていたジャンルを活気づけたかったんです。本当に良いゾンビ映画をもう20年近く観ていません。そのためには、迫力を増すだけで十分だと考えました。
そこで、ゾンビ化した後も知性を残し、性的暴力の脅威という要素をメインにすることでより恐ろしい映画になると考えました。性暴力は私を含めて多くの人にとって対処しづらい問題です。だからこそ観ていて不安な気持ちにさせるものですし、何時間にもわたって性暴力を受ける場面というのは本当に、本当に、本当に見難いものです。じゃあ、そのテーマを入れた映画を作ってみようということになりました。
映画『哭悲/THE SADNESS』より (C)2021 Machi Xcelsior Studios Ltd. All Rights Reserved.
――漫画『CROSSED(原題)』にもインスパイアされていますね?
ジャバズ監督:性的暴力の描写には慎重にならなければいけないと考え、『CROSSED(原題)』の描き方に着目しました。『哭悲』の製作時には、こうした醜いテーマを描くうえで、創造性が必要であることに気づき、多くのシーンを下品なセリフや効果音、視覚的含意を通して描いています。
――劇中で行われる暴力行為は時に目を覆いたくなるほど恐ろしい光景でしたが、どこまでやるのか、やらないのか、バイオレンス表現に対する境目はありますか?
ジャバズ監督:映画製作者として、極端な暴力のなかに少しの慈悲を入れてバランスをとる必要があると考えています。単純にすべてを見せてはいけないと思います。画面の外で何か酷いことが起こるようにすることを選択したとしても、観客に危害を加えようとはしていません。映画製作における芸術とは、何を見せて、何を暗示するかを選択することだと考えています。