戸谷菊之介、『チェンソーマン』大抜擢から1年 「仕事に一切ストレスがない」充実の日々
人間から隠れて生きてきたタートルズたちは、「みんなに受け入れてほしい」「新しい一歩を踏み出したい」という悩みを抱えている。「バカリズムさんに憧れて、お笑い芸人になりたいと夢見るようになりました」という戸谷も、10代の頃は「大人になったらたくさんオーディションを受けて、もっと外の世界を知ることができる。今は経験を積む時期だ。早く大人になりたい」と新たな世界に飛び出したいともがいていたという。
そんな戸谷が声優業への道へと足を踏み入れたのは、「芸人のオーディションを受けるのと並行して、役者さんや声優さんのオーディションも受けてみたんです。そうする中でお芝居のワークショップに行く機会があって。やってみたら『お芝居でも人を笑わせることができる。お芝居って面白いな』とどんどん魅了されていきました」と意欲をふくらませ、ソニー・ミュージックアーティスツが主催するオーディション「第6回アニストテレス」に参加。特別賞を受賞し、声優業を本格的にスタートさせた。
2022年には藤本タツキによる漫画をアニメ化した『チェンソーマン』で主人公のデンジ役に大抜擢され、一気に知名度を上げた。「僕自身、抜擢していただいたことにものすごくビックリしていて(笑)。『チェンソーマン』はお芝居の演出も絵柄も、とてもリアル。リアリティを大切に演じる力を培い、その中でどうやったら言葉に意味を持たせることができるのかということもたくさん考えることができました」と回想。「デンジが壁にぶつかるシーンがあったら、実際に家で壁に体をぶつけてみて、『背中をぶつけると胸も痛くなるんだ』と体感してみたり…。とにかくガムシャラでしたね。現場に行くまではいろいろなことを考え抜くけれど、いざアフレコとなったら考えずに演じることが大事。その場にデンジとして立っていれば、考えずに演じられるはずだという気持ちで臨んでいました」と体当たりの日々を振り返る。
タートルズにとって父親的存在であり、師匠とも言えるのがネズミのスプリンターだが、戸谷にとっての師匠は? すると「緒方恵美さんです」とキッパリと回答。
「緒方さんの主催する私塾『Team BareboAt』で3年間、学んできました。そこでは緒方さんのお芝居を間近で見させていただき、一緒に掛け合いをさせていただくこともあって。本当に貴重な時間を過ごしました。緒方さんのお芝居への熱量って、ものすごいんですよ! 今でも『一体、僕はいくつになったら追いつけるんだ』と思いながら、学んだことを現場で実践できるよう日々頑張っています」と尊敬の念を口にし、「緒方さんは、『役者は日々の過ごし方が大事だ』とおっしゃっていて。『こういう時に自分はどう感じたのか』と心の倉庫に入れて、演じる時にそのリアルな感情を引っ張り出すんだと。ありがたい言葉をたくさん頂きました」と偉大な師匠が、彼の歩みをしっかりと支えている様子。「『チェンソーマン』の放送が終わった時に、久しぶりに緒方さんと飲みに行ったんです。『キクの頑張りはちゃんと見ているよ』と言っていただいて、ものすごくうれしかったです」と目尻をさげる。
その場をパッと明るくしてしまうような朗らかな人柄も魅力的な戸谷だが、「芸人を目指したことを考えても、僕は『楽しんでほしい』という気持ちがとても大きくて。いろいろな反響をもらえることがうれしいです」と充実感もたっぷり。「今、演じるということがものすごく楽しい。だから僕、仕事に一切のストレスがないんです。最高です!」と声を弾ませていた。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
映画『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』は、9月22日公開。