草なぎ剛、代表作を生み出し続けている現在地に「プレッシャーはない」
トランスジェンダーとして生きる主人公の孤独と葛藤を体現した『ミッドナイトスワン』(2020)では、第44回日本アカデミー賞で最優秀主演男優賞を獲得。連続テレビ小説『ブギウギ』では、ヒロインを導く音楽家の軽やかさと芯の強さまでを演じ切るなど、近年、ますます役者・草なぎ剛のすごみを見せつけている。
高い評価を得て代表作といえるものを生み出し続けている彼だが、「出演しているもの、すべてが代表作だと思っています」とキッパリ。これまでの作品がライバルになるというわけでもなく「いつも、その時の集大成をぶつけているだけ。だからこそ、前の作品がプレッシャーになることもない」と役者業への臨み方を明かす。
つかこうへいをはじめとする数々の名演出家から、「天才」とも評される草なぎ。「35歳くらいまでは、いろいろなことを考えながら、台本を何度も何度も読み込んでいました。でも今は、そんなに脚本も読み込まないですね。考えれば考えるほど、よくわからなくなっちゃうから。それよりも大事なのは早く寝て、元気に現場に行くこと! 元気があればなんでもできる。猪木イズムですよ!」と変化を口にしながら、「映画にしろ、ドラマにしろ、自分だけで作るものじゃないから。監督がいて、共演者の方がいて、スタッフの方がいて。そういった皆さんの技術があって、成り立っているもの。『碁盤斬り』にしても監督だって最高だし、出演者の方々もみんな最高じゃん! だから僕は自分のセリフだけをきちんと覚えて、その日、その場で出てくるものを大事にすればいいだけだと思っています」と何よりも大切にしているのは、周囲へのリスペクトと、ものづくりの一部であるという意識だ。
映画『碁盤斬り』場面写真 (C)2024「碁盤斬り」製作委員会
「最高なキャストの方が揃っている」という『碁盤斬り』で草なぎは、半蔵松葉の大女将・お庚に扮した小泉今日子と29年ぶりの共演を果たした。「僕、キョンキョンが大好きで。キョンキョンは大恩人なんです」と目尻を下げ、「僕が20代の初めに、キョンキョンと中井貴一さんが主演を務めていた連続ドラマ(『まだ恋は始まらない』)に出させていただいて。1シーンか2シーンくらいの出演だったんですが、そこでキョンキョンが『草なぎくん、いいね』と言ってくれて! そのおかげで僕の出番が増えたんです! だから僕はキョンキョンに恩がある。それ以来お芝居の現場ではご一緒したことがなかったので、今回の完成作を観た時に僕は、キョンキョンとのシーンで涙が出てきてしまって。本番でも、ものすごく緊張してドキドキしていたのが自分でもわかりました。私もプロだから、その緊張は見えないようにしましたけれど!(笑)」とあふれる思いを吐露。
役者業のスタート地点で背中を押してくれた存在と、再び芝居をすることができた。草なぎは「ご褒美や宝物をいただいたよう」としみじみ。「小泉さんのように、僕も役者をやり続けていなければこういった巡り合わせはないわけで。そういった意味でも、本作は僕の集大成であり、代表作。ひとつの終着点とも言えるかもしれませんし、またここから新たなスタートを切れるのではないかと思っています。本作には、格之進だけではなく、僕の人生も詰まっている。役と共に旅をしてきて、ここに辿り着いた気がしています」とこれまでの道のりに思いを馳せ、晴れやかな表情を浮かべる。