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中村倫也が語る“俳優/人間としての現在地” 表現者として「不安定を好んでいる癖がある」

映画

■「なんだか落ち着かない」がちょうどいい

中村:撮影に入る前や撮影中に色々と考えてはいるのですが、結果的に「あんまり考えていない」に到達したように思います。相対する人によって微妙に砂田も変わるでしょうし、「沙織里と話していても上司の顔がちらつく」みたいに局面ごとに揺れ動くものですから、それを取りこぼさないように一生懸命やっていた――という感じでしょうか。流されてしまっているように見える一方で、カメラを回してインタビューを始めたら「ちゃんとやりたいことがある人なんだ」と感じられる部分もありますし、とにかく「砂田はこういう人」と決めつけずに転がしていました。そういった姿を映し出してくれることで、見る側にとっても気になる人になれたのではないかなと思います。

あと、本作はざっくり「沙織里サイド」と「砂田サイド」の二つの視点で進む構成になっていますよね。向こうがガッと激しいテンションで進むからこそ、こちらが静かな方がコントラストが出て映える――というような意識もあったかもしれません。

――ちなみに、『ミッシング』のように監督が脚本も書かれてオリジナル作品である、という作品だと、中村さんのアプローチも変わるものでしょうか。

中村:そうですね。絶対的な答えを持っている人がいる、という感覚です。脚本を書いている時もシーンをイメージしているでしょうし、撮る時ももちろんそうでしょうから、決まっているゴールにいかに近づけるか――という側面はあるかなと。そういう意味では、現場で監督の言うことをちゃんと聞きます(笑)。作演(書く人と演出する人)が違ったり、海外作品の翻訳だったりする場合は「こういうことかな」と話し合いながら進めていきますが、今回のようなパターンとはやっぱり入り口は違いますね。でもどちらも好きです。

――ただ今回は、吉田監督のイメージとは異なる芝居を石原さんが繰り出してくるパターンも多かったと聞いています。そういう意味では試行錯誤しながら作っていったのかなと。

中村:僕は吉田組が初めてなのでこれまでとの違いは分かりませんが、撮影の合間に吉田監督がタバコを吸いながら「面白いな…」とおっしゃっているのは目撃しました。


――石原さんご自身も、自分からどういう芝居が出てくるか分からなかった、とおっしゃっていましたね。そうなるとその場でのセッションが増えてくる気がしますが、芝居を受ける際に「こういうのが来たか」と驚くことは、経験を重ねていく中で減ってきたのでしょうか。

中村:そうですね。プラス、僕が年々自分の台本の読み方ややり方に固執しなくなってきています。だから全く予想がつかない状況でも「やってみます」となってきたし、やってみて「こういうことかな」と判断するまでも早くはなってきました。ただ、そこに溺れないように自分の成功体験や経験則は信用しないようにしています。

――なるほど。メソッドに固執しないといいますか。

中村:正直、固執しちゃうとつまらないんです。「こうすればいいんでしょう?」って僕の中では全然クリエイティブじゃないし、不確定要素が多い中で「これで合ってるかな?」と試すほうが楽しくて。

――となると、いまは意識的に未知の領域を目指している状態でしょうか。

中村:元からそういう部分はありましたが、年齢を重ねていくごとに未知なるものへのがっつき方が変わりました。そう見えないように人知れずやっているところはありますね。オープンにしていくと、それがまた一つのメソッドになってしまいますから。「実は祖父は縁側で囲碁をするのが好きだった」くらいの感じで、こっそりやっていこうかと(笑)。

――前回の『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』のインタビューで、ここ2~3年を振り返って「『楽しい』と『幸せ』しかない」とおっしゃっていましたが、やり尽くした感であったり不安を覚える瞬間はありますか? 個人的な話で恐縮ですが、仕事を続けていく中で「1周した感」と「先々への不安」にずっとさいなまれていまして…。

中村:僕はどちらも楽しんでいます。人としては安定を好んでいますが、表現者としては不安定を好んでいる癖がありますね。その「不安定」は足元が崩れるようなものではなく、首から上の不安定といいますか――体幹や土台は固まっているからぐらつきはしないけど、なんだか落ち着かないな、くらいがちょうどいいです。全部安定しちゃうとそれしかできなくなるから、固まらないように、より「分からない」状態を楽しんでいます。

でも、SYOさんのおっしゃる感覚はよく分かります。僕も『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)に出演したタイミングで、『仮面ライダーBLACK SUN』に『宇宙人のあいつ』に舞台『ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~』と立て続いて、今まで培ったものは全部出したな、やり切った感があるなと漠然と思っていたのですが、去年『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)や舞台『OUT OF ORDER』をやったときに「新しい感覚でチャレンジしているな」と自分自身に感じたんです。周りは誰もそんなことを思わないだろうけど、自分の中ではそうした感覚を得ました。ミルクレープの生地が厚くなっていくように、乗せようと思えば乗せられるんだと感じたのは発見でした。

分かりやすく上がっている時のほうが、ステップが明確だから楽だと思うんです。「上がっちゃったな」と思うと、次のステップを探さないといけなくなりますから。でも、実はまだ踊り場だったりするんですよね。そうした気付きは人との出会いでもたらされるものかもしれないし、自分なりの角度で見えるものかもしれないし、画一的なものではないかもしれませんが――人生はその繰り返しじゃないかなと思います。

――この場を借りて人生相談をしてしまい、申し訳ないと思うと同時に、ありがたいお話をしていただいて、ものすごく染みています。

中村:いえいえ。これは僕の話ですが、去年ある風の強い夜に「壁と屋根がある場所で寝られていいな」と感じました。この間も料理をしていて「ガスコンロってすごいな」とふと思ったり、当たり前と思っていたものがそうじゃないと考える機会が増えてきた気がします。つまり、自分の足元をもう1回見つめ直したら幸せがいっぱい転がっているんだと。宮沢賢治ではないですが、土塊を見ながら自分を見返すと新しい空が見えてくるんだと悟りました。きっと、年を取って目が顕微鏡になってきたんでしょうね。

※吉田恵輔の「吉」は「つちよし」が正式表記

(取材・文:SYO 写真:上野留加)

 映画『ミッシング』は、全国公開中。

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