クランクイン!

  • クラインイン!トレンド

佐倉綾音の表現論—正義を貫く“変わらない自分”の在り方

アニメ

■「自分のための表現」と「誰かのための表現」

――表現活動における「必要な変化」として、現在アプローチしていることはありますか?

佐倉:ここ数年、いろんなクリエイターさんとお話しする機会が増えてきたんです。これまではあまり交友関係を広げてこなかったんですけど、「この方と話してみたい」とリスペクトを感じる方と接する中で、すごく刺激を受けることが多くて。その中で「自分のための表現」と「誰かのための表現」という考え方に出会いました。

声優として関わる作品って、どうしても商業的な要素が強いんですよね。大きなお金が動くし、届く範囲も広い。10代の頃からそういう環境にいたので、だんだん表現活動の価値基準を「成果」や「数字」で考えるようになっていたんです。それが悪いことだとは思いませんし、しっかり敬意を持って関わりたい。何より「誰かのためになりたい」という思いはすごく大きいんです。ただ、その成果主義に囚われることの怖さに気づいてから、「表現ってそもそも何なんだろう?」と考えるようになって。

それで、「自分のための表現」も少しずつ取り戻してみようかなと思ったんです。それは自己満足で構わないし、誰かに見せてもいいけれど、見返りを求めない形で行うもので。たとえば、絵を描いてみたり、10代前半に「こんなことやってみたいな」と思っていた純粋な気持ちをもう一度思い出す作業をしてみたり。そうした時間を持つことで、新しい感覚が生まれて、それがまたお仕事にも役立っていくんじゃないかなと思っています。


――素敵ですね。私もよく悩むことがあるのですが、表現活動もビジネスである以上、最終的なゴールは「成果」や「数字」になるけれど、出発点からそれを目的にしてしまうと、表現する意味を見失いがちになるというか。

佐倉:そうなんですよね。もちろん、ビジネスはビジネスで楽しい部分もあって、数字を確認しながら「これがうまくいってる」とか「ここが弱いからどう改善しよう」と考える作業は、自分に向いているところもあると思うんです。でも、そうした商業的な視点だけではなく、自分のための表現が、結果的に商業の部分でも自分の感性を底上げしてくれるような形で繋がっていけばいいなとも思っていて。

私は0から1を生み出すクリエイターではないけれど、声優として「表現者でありたい」という気持ちはずっと持ち続けていて、その表現に向き合う時間はしっかり取りたいと思っています。たとえば、舞台を観に行ったり、敬遠しがちな朗読劇のお仕事にも、今は「この布陣ならやってみたい」と思えるものには挑戦するようにしています。

そうすると、手元で練る台本がある期間が長くなって、より深く向き合えるんです。普段のアフレコは刹那的で集中を要する作業なので、短期間で勝負が決まることが多いんですよね。30代になった今、自分の感覚が鈍らないうちに、そうした経験を積み重ねていきたいですし、これからも努力を続けていきたいと思っています。

――先ほどの「変わらない自分を保つ」というお話しにも通じますが、「自分の感覚が鈍っていくかもしれない」という怖さはありますよね。

佐倉:人間の衰えって、どうしても自分では気づけないことが多いんですよね。今も自分の知らないところで何かが変わっているのかもしれないと思うと、とても怖くて。

だからこそ、自分を俯瞰で見ることを大切にしているものの、俯瞰で見ているつもりが、実はそれ自体が自己満足になっていることもあるかもしれないので、そこは意識して慎重にしようと思っています。自分で「大丈夫」と思い込むだけではなく、客観的に確認しながら、完成度やセンスが衰えないように日々心がけていきたいです。

――“表現者”であり続けるために。

佐倉:そうですね。私が所属する青二プロダクションでは「生涯現役宣言」をスローガンに掲げているのですが、実際に亡くなる直前まで表現を続けられる先輩方がたくさんいらっしゃって。ただ、もしも私が自分の表現をたたむときが来るとしたら、それが「誰かのためになる」と感じたときなのかな、と思っています。

やはり私がお仕事として続けていきたいのは「誰かのための表現」であり、キャラクターや作品を支えるスタッフさん、そしてそれを楽しみにしてくださっているファンのみなさんのために、自分の全力を尽くしたい。逆に、「自分がこうしたい」という自己中心的な思考に囚われてしまったら、それは私の中で大切にしている正義から外れてしまう気がするんです。

たとえば、自分の滑舌や声質、お芝居が年齢や変化によってキャラクターに合わなくなったと感じたとき、ちゃんと「ここが引き際だ」と見極められる自分でありたい。それが表現者としての私の責任であり、守り続けたい信念ですね。


(取材・文・写真:吉野庫之介)

 テレビアニメ『SAKAMOTO DAYS』は、1月11日よりテレ東系列ほか各局で放送開始。Netflixほか各プラットフォームでも配信予定。

3ページ(全3ページ中)

この記事の写真を見る

関連記事

あわせて読みたい


最新ニュース

  • [ADVERTISEMENT]

    Hulu | Disney+ セットプラン
  • [ADVERTISEMENT]

トップへ戻る