上川隆也、「節目を気にしない」役者道 礎になったのは30年前の出世作『大地の子』
1995年放送の『大地の子』(NHK)で一躍注目を浴びた上川。当時無名の新人だった彼が、2本目のテレビドラマで主演を務めるという抜擢を受け、中国での大規模な撮影に挑んだ。撮影期間は約130日、気温は40度からマイナス20度まで変動する過酷な環境。「鼻毛まで凍るような寒さや、撮影隊が凍傷になりかける状況を経験しました」と振り返る。
この経験は、上川にとって役者人生の基準点となった。「あの撮影を超える過酷さはそうそうない。どんな状況でも『あれに比べれば』と思える自分がいる」と語る。また、母国語以外で演技をする挑戦も、以降のキャリアに大きな影響を与えた。「どんなに長いセリフでも、なんとかなると思えるようになりました」と自信の源を明かす。
タイミングで節目を感じたり、特別な意気込みを作品に込めたりすることはないという上川だが、改めて問うと「無関心なだけです」と笑う。「お芝居に出会ってから今に至るまで、ずっと楽しいと思えているんです。一番楽しいおもちゃを目の前に置き続けていられているかのような、だからこそ、この節目だから、こんな風に遊び方を変えようなんて思わずにいられるんだと思います。色々とためつすがめつしているうちに、気がついたら年月を超えてきたんだな、というのが実感です」。
上川隆也
若い頃に有名になりたいという思いも特に抱いていなかったと言い「そもそも劇団に入団したのも、お芝居がしたい、という思いだけで飛び込んだ世界でしたし、その後もじゃあこれで名を成していこうなどとも思わず、なんて面白いんだろうと思いながら過ごしていって、その中で巡り合った作品の1つが『大地の子』でした」と顧みる。この作品で共演した仲代達矢や朱旭との出会いが、役者としての意識を変えた。
「初めてとんでもない役者さんを目の当たりにして、役者ってすごい仕事なんだと改めて見せつけられました。そこで自分は役者になっていきたい、あの人たちのようになりたいと、初めて思ったんです。それまではお芝居ができればいいぐらいに思っていて、役者であろうなどという大志とも言うべきものを抱いてすらなかった。今度は役者になるために、お芝居とどう付き合っていくかが自分の中での大望になっていきました。 だから次の節目でどうとか、むしろ気にするものでもすらなかったように思います」。
芝居に出会ってから今日まで、ただ楽しくて仕方がない――そんな純粋な思いが、上川の役者人生を支え、道のりを築いてきたのだろう。一つ一つの質問に穏やかで丁寧に答えるその姿からは、芝居を心から愛し、真摯に向き合ってきた生き方がにじみ出ていた。(取材・文:川辺想子 写真:松林満美)
ドラマ『問題物件』は、フジテレビ系にて毎週水曜22時放送。