加賀まりこ、『しあわせは食べて寝て待て』で好演 チャーミングな“90歳の鈴さん”から学んだこととは?
ドラマ『しあわせは食べて寝て待て』場面写真 (C)NHK
――鈴さんは、さとこはもちろん司にとっても、人生の灯台のような存在に感じました。加賀さんご自身にはそんな存在はいらっしゃいますか?
加賀:そうねぇ…。何事にも執着がなくて。その時はすごく感謝してるんだけど、忘れちゃうってどういうことでしょうね(笑)。
日頃の付き合いはめったにないですけど、ヴァイオリニストの前橋汀子さん。実は彼女と私は同い年なの。ある日、30手前だったかな、2人とも泳げないということが判明して。それで2人で水泳教室に行ったんですね。あちらは、幼いころから(ヴァイオリンを)基礎からずっとやっている。私は劇団四季で基礎は全部やりましたけど、基礎を大事にしてきたわけじゃない。その違いがすごく出るのね。一番最初に先生が「ビート板でバタバタやりなさい」って言ったら、彼女はもういいって言われるまでそれをやっているの。私はできるからもういいや!ってすぐに飽きて、「先生!次はどうやるんですか?」って先生の手の動き、足の動き、息の吸い方、そういうのを見る。私は教えてもらうというより、「沢村貞子さんの芝居素敵だな」って思ったら見て覚えてきたから。職業の差っていうのかな、そういうのが出て面白かったですね。
今でも彼女は現役のヴァイオリニストで、1日に8時間も練習すると聞くと、たった24時間しかない中で8時間もしていたら、なんか楽しみってあるの?って(笑)。まったく違うから惹き合う、気になる生き方なんだろうな。
――ドラマには、いろんなことができた昔の自分と比べてしんどくなったり、仕事で成功した友人と比べてしまって嫌な気持ちになるキャラクターが登場します。
加賀:比べる…。辞書にないですね。人がどう思うかなんの興味もないので。「評判がいいですね」って言われればうれしいですよ。でもどう評判がいいのかとか興味ないし。人にどう思われるかっていう価値観で生きていないのよね。昔の自分と比べるって、若いなって思うだけで、それくらいですね(笑)。
――この作品は何かに直面して生きづらさを感じたり悩みを抱える人の心をじんわり温めてくれる作品ですよね。そうした状況の方に何かアドバイスはありますか?
加賀:私もそれなりに悩んだからこそ日本を離れてみようとしたこともあるんですが、痛い思いをしたほうがいいのよね。そうすると覚えるでしょ。私もそうだったから。私は「?」って思ったら、すぐノックして行って聞いてくるからあんまり悩まないのね。ストレスがないっていうとバカみたいなんだけど、本当にどっちかっていうとないんですよね。
――ドラマ、映画、バラエティーとさまざまな作品で加賀さんのブレないかっこよさを拝見していますが、その原点はどこにあるのでしょうか?
加賀:全然無意識ですけど、そういう家庭で育ったんですね。学歴とか肩書とか世間体ってそんなものはなんにも生まないっていつも言ってました、親が。原点はそこだと思いますね。
――最後に、『しあわせは食べて寝て待て』を楽しみにされている皆さんにメッセージをお願いします。
加賀:気持ちがニュートラルになるドラマだと思います。そして、ニュートラルになったところに、辛みも甘みも入ってくるので、最後まで目を離さないでご覧ください。
(取材・文:佐藤鷹飛 写真:高野広美)
ドラマ10『しあわせは食べて寝て待て』は、NHK総合にて毎週火曜22時放送。