大竹しのぶ、『リア王』挑戦も気持ちはいつもと変わらず「“男性”を意識するのではなく“人間・リア”を演じたい」
――大竹さんは今年、初舞台から50年を迎えられました。
大竹:ひぇー。そうなんですね。
――大竹さんにとって、舞台の魅力というのはどんなところに感じられますか?
大竹:いろんな世界に連れていってもらえる遊び場って言ったら変なんですけど…。こないだまでは和歌山の緑とか美しい川とか、美しい景色の中で生きる人の穏やかな感じで生きてきたのが、今はなんでこんなに激しい世界に来てるんだろうって(笑)。いろいろな時代、いろいろな場所に行けるんですよね。舞台に立つこと自体は私にとっては生きる場所っていうか、一番楽しいところ。ただ疲れはするので、ずっとはできない(笑)。
『リア王』もあと3ヵ月くらい稽古があればいいなって思うくらい、稽古が大好きなんです。教えてもらうことが好きなので、いろんなものを学べる場所ではありますね、舞台って。
――今年は春に『やなぎにツバメは』があり、夏に『華岡青洲の妻』、秋に本作をはさんで、冬には『ピアフ』と、舞台への精力的な出演が続きます。そのバイタリティーの源はどこにありますか?
大竹:めちゃくちゃですよね(笑)。『華岡青洲』をやってるときは、『リア王』のことも考えなくちゃと思いながらもまったく考えられなかった。次のことは考えられずその世界に没頭しちゃっていて…。でも稽古場に来るとその役に集中できるので、もしかしたら役からバイタリティーをもらっているのかもしれない。演じることから元気をもらっているのかも。普段の私はボーっとしていますから。
――50年を超える俳優生活を送られる中で、憧れた存在の俳優さんはいらっしゃいますか?
大竹:かわいがってもらったのは奈良岡朋子さん。きちんと一人で地に足をつけて立って、世界のことや日本の政治のことや文学もそうですし、いろんなことを私に教えてくださった方です。女優としてだけじゃなく、1人の人間としてカッコいい方でした。嫌なものは嫌ってはっきり言うところも素敵でした。
――今では大竹さんに憧れる女優さんもたくさんいらっしゃいますが、今後の“女優・大竹しのぶ”はどんなことにチャレンジしていきたいですか?
大竹:これから先はもう少しのんびりしたいです。ちょっと激しいものが続きすぎ、私の人生(笑)。『華岡~』もけっこう激しい芝居だったんですけど、『リア王』はもっと激しいし、『ピアフ』はまた違う意味で激しくて。
何気ない日常の会話で描く『やなぎにツバメは』をやった時に、最初「なんだこれ? こんな日常会話だけで、面白いんだろうか?」と思って(笑)。脚本の横山拓也さんと演出の寺十吾さんにも、「これどこが面白いんですかね?」って言っちゃったんですよ。本当に失礼ですよね。「これで何を得るんでしょうか?」…そこまで言っちゃって。
でも林遣都くんや松岡茉優ちゃんが「絶対面白いから!」「人間が愛おしく見える。両親を想うから」って言ってくれて、そして初日になってお客さんが「なんでこんなことで喜ぶんだろう?」っていうくらい、すごく笑ったんです。そうしたら私も調子に乗って、どんどん面白くなってきて(笑)、その連続の毎日でした。勿論すぐに「本当にどうもすみませんでした」って横山さんと寺十さんに謝りました。
私は、「おお、神よ!」とかそういうのばっかりやってきて、「お帰り。手洗ったの?」とか、普通の人間の暮らしの中にある、人々の悲しみや可笑しさを私は分かっていなかったなぁと。お2人には深く深く謝罪しました。
本当に普通の笑いじゃなかったんです。1時間半みんな笑いっぱなしで。「あ、こんなふうに笑えるってすごいことだな」と思って、劇場が笑いに包まれる幸福を感じましたし、演劇ってまだまだ知らないことがいっぱいあるんだなと思いました。また横山さんと寺十さんのお2人と一緒にやりたいです! 調子いいな、私。でも本当です。
(取材・文:近藤ユウヒ 写真:高野広美)
Bunkamura Production 2025/DISCOVER WORLD THEATRE vol.15『リア王』は、東京・THEATER MILANO-Zaにて10月9日~11月3日、大阪・SkyシアターMBSにて11月8日~16日上演。