沓名健一監督、“チャンバラ”と“手描きアニメ”に込めた並々ならぬ魂「人が描いた絵は尊いもの」<『SEKIRO: NO DEFEAT』インタビュー>
──3DCGのゲームを全編手描き2Dアニメーションで描く際に大変だった部分はどこでしょうか?
沓名:大変なのは、古い建物を描くところでしょうか。アニメーターが背景の元になる絵を描いてから、背景美術さんがその絵を絵の具で描くんですけれど、現代とは建築の様式が違うので資料を見ながら「梁がこれくらいで…」とか、試行錯誤してもらわないといけなかったんです。現代劇にはあまりない特有の難しさがありましたね。また、着物の重ね方や歩き方、刀の扱いもそうなんですけれど、あらゆるものが現代人の所作とは違っていて、そこを調べてアニメーターたちに説明したり何度もやり直したりしていくのも難しかったです。
──では、背景など含め、相当な数の資料を集められたのでは?
沓名:そうですね。実際のお城へロケハンも行きましたし、建築物の資料もたくさん集めました。ほかにも、時代考証の先生にも協力してもらって意見をいただいて、とにかく色々調査しました。
──殺陣などアクションシーンでのこだわりを教えてください。
沓名:アニメやゲームにおけるチャンバラ劇って、すごく速いテンポで超人的なアクションを繰り広げるものになりがちなんですけれど、『SEKIRO』は刀の扱いや人の体の重さなどが、非常にリアルに表現されていました。そのリアリティを再現するため、実写の剣戟映画を主に参考にして“地に足をつけたアクション”を心がけました。
また、今回は絵コンテ前の段階から浅山一伝流という古武道の流派の方々に直接取材をし、動きを指導してもらってアクションシーンを構成しています。「こういう状況で戦うとしたら、当時はこう動くはずだ」「足下にススキがあったら歩きにくいからこう歩く」など、剣術家さんの意見をアクションに反映させているので、よりリアリティのある戦いを描けたと思います。
──具体的にはどんな作品から影響を受けていますか?
沓名:大島渚監督の『御法度』(1999)。あとは黒澤明監督の『乱』(1985)や木村大作監督の『散り椿』(2018)です。特に『御法度』はチャンバラをリアルに描きたいと思う自分の動機付けになった作品でもあります。観たのは高校生くらいのころだったんですけれど、アクションの見栄えよりも、型を大事にした殺陣をしていて、その形式ばった所作に当時すごくしびれました。あと、本作はアクションというより暴力表現にしたいという思いもあったので、『座頭市』(2003)など北野武監督の映画も参考にさせてもらっています。
──アニメにも時代劇はありますが、参考にされた作品はありますか?
沓名:アニメだと『獣兵衛忍風帖』(1993)と『もののけ姫』(1997)です。『もののけ姫』ってかなり色彩の扱いなどが『乱』に似ていると自分は思っていて、『乱』をアニメに落とし込むお手本として参考にさせてもらっています。『獣兵衛忍風帖』については、作品が持つダークな世界観に影響を受けていまして、特に背景美術やレイアウトといった手法をすごく参考にさせてもらいました。
今回、美術監督は金子雄司さんという方にお願いしています。金子さんは小倉工房という背景美術の会社出身でして、『獣兵衛忍風帖』の美術監督も小倉工房の代表取締役である小倉宏昌さんが当時担当していました。その系譜で今回は表現しようと、当初から計画していたんです。
──監督が一番好きなキャラクターとその魅力について教えてください。
沓名:死なず半兵衛です。本作の半兵衛は、ゲームに比べると少し陽気なキャラクターになっています。そこもアニメ的なチューニングをした部分であって、作品の重い空気をたまに壊すキャラクターがどうしても欲しいなと思っていたところに彼がいて、砕けた雰囲気の演出をするときに活躍してくれました。例えば、最初に狼と九郎が荒れ寺に到着したシーンにひょこっと出てきたりとか。とてもいじりがいのある人物なので、みなさんも面白おかしく半兵衛を見ていただければと思います。
『SEKIRO: NO DEFEAT』場面カット (C)2019 FromSoftware, Inc. All rights reserved. ACTIVISION is a trademark of Activision Publishing Inc. All other trademarks and trade names are the properties of their respective owners. (C)KADOKAWA/Sekiro: No Defeat PARTNERS
──監督が『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』をプレイされて感じた一番の魅力とは何でしょうか。
沓名:難しさです。近年のゲームはクリアしてもらえるように、ある程度の配慮がされている作品が多いと思います。でも、フロム・ソフトウェアさんのゲームって大半が「頑張ってクリアしてくださいね」っていうスタンスにある。これは、作品に自信がないとできないことなので『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』に触れてしびれました。昔、自分がファミリーコンピュータを遊んでいたころに感じた難しいけど楽しいをまた体験することができて、すごく面白かったです。
──最後に、全編手描き2Dアニメーションにこだわられた理由をお願いします。
沓名:本作は設計段階では3Dの力を使っていますが、映像は全て手で描かれています。自分は2Dのアニメーターなので、門外漢である3Dを頑張って扱ってゲームのルックに寄せるよりは、得意な手描き表現を選択した方がクオリティもコントロールできるし、作品作りにおいても誠意があると考えたからです。
また、昨今のAIの台頭なども考えると、人が手で描いた絵は今後ますます尊いものになっていくような気がするんです。なので、人の手で作る手法を自分は最後まで手放さないと思います。ちょっとスピリチュアルかもしれませんが、人が手で苦労して描いたアニメーションには魂が宿っていると思うんです。自分もアニメーションを見るときは、人が作ったからこその魂を感じ取れるので、自分の作る作品にもそういったものを込めたくて全編手描き2Dアニメーションという選択をしました。
(取材・文:舘はじめ)
劇場アニメ『SEKIRO: NO DEFEAT』は、9月4日より3週間限定上映。
※『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』『SEKIRO: NO DEFEAT』の「:」は半角が正式表記
