東山奈央「終わりたくない」と思える幸せ 歌手活動10年の“轍”と虹の向こうに託した未来
――歌手活動10周年という節目の中で、いったん活動をお休みするという選択には、どんな思いがあったのでしょうか。
東山:自分の歌手活動のスタイルは、一生続けられるものではない。そのことは、ずっとどこかで薄々感じていました。声優の仕事も歌手活動も、どちらも100%、フルスロットルで駆け抜けてきました。体力も気力も集中力も、自分にできることを出し切るつもりで。特に自分のライブは、歌って踊るエンターテインメントショーにしたいという思いが強く、準備にも練習にも、たくさんの時間をかけてきました。声優をやりながらこのスタイルをずっと続けていくのは、年齢を重ねる中で、いつか難しくなるだろうとは思っていたんです。
私は“火事場の馬鹿力”が出るタイプなので、それでも頑張れてしまっていました。でも、2年ほど前のライブで、かなり練習を重ねたつもりだったのに、本番中、ものすごく息が苦しくなったことがあって。「これだけ練習しても、今回はこんなに苦しくなるんだ」と痛感しました。それからジムに通うなど、体力づくりにも励みました。でも同時に、「そろそろ、この先について考えなければいけない時期が来たのかもしれない」と思うようになったんです。
できなくなってから考えるのでは遅い。自分がまだ成長している姿を見てもらえるうちに、皆さんへサプライズや感動を届けられるうちに、一度、節目を作りたい。その節目は、もう目前に見えていた10周年がいいのではないか――そう気付いてしまったんです。そのライブが終わって、本当に3日ほどたった頃でした。ふと、「10周年で終わるべきなのかもしれない」という選択肢が、初めて頭に浮かびました。
(涙ぐみながら)今、思い出しても泣けてしまうんですけど……。「ああ、そうか。そういうことなのか」と。今の形で続けてきた活動の終わりを、こんなにも突然実感することがあるんだと思いました。
「10周年で終わった方がいいのかもしれない。でも、どうしよう。終わりたくないな」って。
歌手活動は、私にとってライフワークのようなものでした。大変なこともたくさんありましたが、それ以上に楽しく、やりがいがあったから続けてこられた。応援してくださる皆さんの顔も次々と浮かんできて、「活動が終わったあとの自分は、どうなるんだろう」とも思いました。
それでも、何度考えても「10周年で節目を作るべきだ」という気持ちは変わりませんでした。絶対にその方がいいという結論に行き着いてしまう。だから、自分が心から納得できるまで、何度も何度も問答を繰り返しました。
でも、「終わりたくない」と思いながら終えられるのは、すごく幸せなことでもあると思ったんです。「終わってよかった」と思うところまで続けるよりも、「まだ終わりたくない」と思えるほど好きなまま節目を迎えられる方が、幸せなのかもしれないって。
それに、引退ではなく、あくまで休止です。何年後に帰ってくるのか、そのとき再びフライングドッグさんでスタートできるのかも含め、何ひとつ約束されたものはありません。どんな形になるのかも分かりません。
それでも、たとえこぢんまりとしたアットホームな形だったとしても、そのとき待っていてくださる方がいるなら、どんな形でも帰ってこようかなと思っています。そういう意味での「休止」です。ただ、休止とはいえ、相当な覚悟を持って迎えるファイナルであることに変わりはありません。
一方で、休止を発表してよかったと思えたこともありました。業界の身近な方々から、「お知らせを見たよ」「その選択をリスペクトする」「尊敬する」と声を掛けていただいたり、手紙を書いてくれた子がいたり。スタッフさんや同業の方と、これまでできなかったような深い話をする機会も生まれました。
好きなことを仕事にしていても、それぞれに苦しさや葛藤がある。私は、苦しくて辞めるわけではないんですけど。皆さんも自分らしく仕事を続けていく中で、いろいろと思い悩むことがあるのだと知りました。
ほとんどお話ししたことのなかったスタッフさんが、すれ違いざまに「実は僕、東山さんのファンなんです。休止の発表も見ました。ファイナルまで、めちゃくちゃ応援しています。本当に頑張ってください」と声を掛けてくださったこともありました。自分の知らないところ、気付かないところで、こんなにも大切に思ってくださる方がいたんだ――。この発表をしたからこそ、初めて知ることができました。
“今”が当たり前のように、ずっと続くわけではない。そのことを、しっかり体感したように思います。
――ここまで率直にお話しくださって、ありがとうございます。「終わりたくない」と思えるほど大切な活動だからこそ、その中で節目を選ばれたことに、改めて大きな覚悟を感じました。歌手活動をお休みしている間は、音楽とどのような距離で向き合い、どんな時間を過ごしたいですか。
東山:これまでは自分が歌うことに必死で、実は自分の曲以外をあまり聴けていなかったんです。アイドルソングやK-POP、洋楽など、純粋に音楽をたしなむ時間がほとんどなくて。だから、まずは一人の聴き手として、いろいろな音楽に触れてみたいです。
それに、歌手活動の制作や準備には、生活の中のたくさんの時間を注いできました。声優の仕事もありがたいことにとても充実しているので、毎日の“営業時間がとても長い”ような感覚で(笑)。自分の時間をゆっくり味わう余裕は、あまりなかったんです。
なので、本も読んでみたいですね。とりあえず、何でもやってみたいです。行ったことのない場所へ出掛けたり、旅行をしたり、なかなか会えなかった友達に会ったり。
あとは、これまで見て見ぬふりをしてきた面倒なことにも、きちんと目を向けたいです。部屋の片付けとか(笑)。そういう、ごく普通のことを一つずつ楽しんでみたいですね。
