長編初監督&初演技コンビが挑んだ家庭内暴力映画が評価「なり切り、伝え切った」

関連 :
11歳の少年が、愛する母を狂気的な父から守ろうと奔走するさまをスリリングに描き、第74回ヴェネチア国際映画祭で監督賞を獲得した映画『ジュリアン』。本作が長編監督デビューとなったグザヴィエ・ルグラン監督と、演技未経験ながら主人公を熱演したトーマス・ジオリアがインタビューに応じ、フランスにおける家庭内暴力の現状や、俳優業への思いなどについて語ってくれた。
【写真】グザヴィエ・ルグラン監督&トーマス・ジオリア、『ジュリアン』インタビュー
主人公のジュリアン(トーマス)が、離婚した父のアントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)から、母のミリアム(レア・ドリュッケール)を守ろうとする姿を、緊張感あふれる演出とともに描く本作。家庭内暴力に焦点を当てた意図を問うと、ルグラン監督は「男女間における暴力というのは、古くから変わらない問題としてずっと存在してきました。家族の問題、特に家庭内における暴力や虐待などを扱うことは、テーマ自体として普遍的であり、取り組む意味があるのではないかと思ったのです」と語る。
現在のフランス本国における家庭内暴力の有様を、ルグラン監督は「3日に1日の割合で、DVの被害に遭った女性が亡くなっているという現実があります。虐待も多く目にしますね。これは全ての階層において起こることで、医者や弁護士などの社会的地位が高い人々の配偶者においても同じような状況があるのです」と指摘する。その要因には「ナポレオン法典」における家父長制を挙げ「『不服従な妻に対しては暴力をふるっても良い』といった父権優位が続いてきたことが、現状を生んだ大きな原因なのではないかと思います」と考えを述べる。
グザヴィエ・ルグラン監督
ルグラン監督は「この映画に出てくるアントワーヌは、怪物ではなく人間なのだということも表現したかったのです。アントワーヌが暴力的なのは、遺伝ではなくさまざまな外的要因によって苦しんでいるからです」とも発言。そして「そういったこと(=家庭内暴力)を繰り返す人に対して、フランスのみならず、社会が何か手立てを与えなければいけないと思っています」と持論を展開。
一方、演技初挑戦にして狂気的な父親に怯える少年を熱演したトーマスは「いろいろな感情を、このジュリアンという役を通じて経験しました。ジュリアンになり切るため、彼が経験した悲しみや笑いを感じ、涙を流したのです。一言では言い表せませんが、ジュリアンという役そのものになり切り、感じて、経験しました」と撮影を述懐する。