「何事も否定しなくなった」 橋本愛の人生観を変えた映画体験
■「何事も否定しなくなった」人生観を変えたセリフ
――「映画に救われた人生」というお話がありました。橋本さんにとって、映画はどのような存在なのでしょうか。
橋本:本来、人間は誰かとコミュニケーションを取ることが心の健康を保つためには一番いいことなんだと思いますが、一人の時間を持つこともとても大切だと感じています。映画は、自分一人で“自分を癒やす力”を得ることができるものだと思っています。
――特に救われた映画、セリフなどがあれば教えてください。
橋本:第30回東京国際映画祭で上映されたアレハンドロ・ホドロフスキー監督の『エンドレス・ポエトリー』を観たときに、「愛されなかったから、愛を知ったんだ」というセリフがありました。この言葉で、それまでの心持ちが180度変わりました。愛してくれなかった人やうまく付き合えなかった人に対しても、恨むのではなく「私は、あなたのおかげで愛を知ることができたんだ」と感謝できるようになったんです。
もし誰かに嫌なことをされたとしても「心に何か不満があるんだな。それは私には手が届かないものだけれど何とかなるといいな」と思えるようになったり、何事も否定しないようになったというか。今では自分の考えの土台になっているくらい、忘れられないセリフです。
――マイナスだと思っていたことが実はプラスになっているという、逆説的な考え方ですね。
橋本:嫌なことや悪いことが起きたとして、その渦中はしんどくても「それがあるからプラスになることがある」と思うと、気持ちが楽になりますよね。例えば、私は“あまり学校に行けなかった”ということが、自分の中でしんどいなと思うことだったんです。少女漫画を読んでいても、高校生活ってとてもすてきな時間として描かれていますよね。
「みんなが持っているその青春の時間が私にはないんだ」「この命はその時間を知らずに死んでいくんだ」と思ったりすることもあったんですが、逆を言えば、その時間がなかったからこそ、私は今この気持ちを持つことができている。みんなはこの気持ちを持っていないわけですから、私にしかないこの気持ちをきっと創作に生かすことだってできる。そう思うと自分のことを肯定できるし、自己実現にもつながる。それってすごく健康的なことなんじゃないかなって。
――映画は、橋本さんにうれしい変化をもたらしてくれたのですね。
橋本:私にとって映画は“娯楽”という感覚ではなく、“薬”や“教科書”のようなもの。9割、芸術に育てられたと思っています。もし苦しい経験をされている方がいたら、映画が救いになれることもきっとあるはず。映画がある、映画館があると思い出してもらえたらうれしいです。(取材・文:成田おり枝 写真:小川遼)
第34回東京国際映画祭は、日比谷・有楽町・銀座地区にて10月30日〜11月8日に開催。