<舞台『千と千尋の神隠し』レポート>スタジオジブリの世界を俳優の肉体で見事体現
関連 :
スタジオジブリの名作アニメ映画を、女優の橋本環奈と上白石萌音主演で初めて舞台化し、3月2日より東京・帝国劇場で上演されている『千と千尋の神隠し』。橋本と上白石が主人公の千尋役をダブルキャストで演じているが、ここでは1日に開催された橋本主演版のゲネプロをレポート。アニメだからこそ表現可能と思えるキャラクターや名場面の数々を、舞台上でどうやって表現するのか―。誰しもが気になるところだと思うが、劇中では『千と千尋の神隠し』の世界にそのまま入り込んだかのような没入感を味わうことができた。
【写真】橋本環奈が千尋を体現! 舞台『千と千尋の神隠し』ゲネプロ写真<10枚>
宮崎駿が原作・脚本・監督を務めたアニメ映画『千と千尋の神隠し』は、やおよろずの神々の世界へと迷い込んだ主人公の少女・千尋が人間の世界に戻るため、さまざまな出会いを経て、生きる力を呼び覚ましながら奮闘する姿を描いた作品。2001年の封切り以降、爆発的な大ヒットを記録し、2003年には米国アカデミー賞長編アニメーション映画部門賞を受賞。その壮大かつ独創的な世界観が日本のみならず世界中で愛され続けてきた。
今回、世界初演の舞台化にあたり、ミュージカルの金字塔『レ・ミゼラブル』オリジナル版の潤色・演出を担い、演劇史に残る名作を生み出してきたジョン・ケアードが、翻案・演出を担当。ジョンはこれまでも、俳優を信頼してフィジカルな舞台表現で数々の名作を創ってきたが、この作品でもキャラクターと名場面に命を吹き込み、不可能と思われた名作の舞台化を成し遂げている。
今作の見どころは、何と言っても、まるでアニメから飛び出てきたかのようなキャラクターの再現度だろう。まずは、主人公・千尋を演じる橋本。会見で湯婆婆役の夏木マリから「緊張しない」と称された彼女だが、持ち前の華やかさと存在感を醸し出し、初めての舞台とは思えないほどの大胆さと繊細さを持ち合わせた演技で、現実社会から『千と千尋の神隠し』の世界を引き込むリード的な役割を務める。はつらつとした橋本自身の魅力が存分に光る、魅力的な千尋に魅了された。
朴ロ美とダブルキャストで湯婆婆・銭婆役を務める夏木は、2001年の原作アニメ映画で湯婆婆の声を当てている。声や演技はもちろんだが、そこに夏木自身の存在感も合い交じり、アニメと同様に湯婆婆が出てくるだけで一気に舞台上の空気が変わるのを感じた。アニメで湯婆婆が巨大化する部分は、夏木と湯婆婆の顔のパーツを持った5人の俳優が一つになり表現するのだが、まさにド迫力なシーンで度肝を抜かれる。
また、物語の舞台となる「油屋」を訪れる神様、千尋が走り抜ける生垣、愛らしいススワタリや坊ネズミなどは、すべて俳優がパペットを操り、肉体と精神で表現。なかでも、独特な動きを見せるカオナシは、ダンサーの菅原小春(辻本知彦とダブルキャスト)が自身の身体能力を駆使して体現。カオナシが暴走し巨大化していくシーンは、最多12人がかりの俳優が一つになり表現しているそうだが、まさに圧巻の一言だ。ほかにも釜爺の最長6mの手を最大6人の俳優、竜と化したハクも最大5人の俳優が表現するなど、ジョンのエネルギッシュな表現法により、全部で50体以上のパペットと総勢32名のキャストによる身体表現で、不可能と思われたキャラクターたちを作り上げている。
さらに、全高5mで360度回転しながらさまざまな表情をみせる湯屋「油屋あぶらや」をはじめとした壮大なセット、こだわり考え抜かれた舞台の上でこそ輝く衣装も、『千と千尋の神隠し』で生きるキャラクターたちをよりリアルな存在にする一役を買っている。
そして、物語を彩る音楽も魅力の一つ。アニメでも流れる久石譲のオリジナルスコアを、原作映画を愛する音楽スーパーヴァイザーのブラッド・ハークとコナー・キーランが編曲・オーケストレーション。俳優の演技に応じてオーケストラの生演奏が反応していくライブ感も舞台ならではだろう。
初日公演を観劇した、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーも絶賛を寄せた本作。再現不可能と思われる『千と千尋の神隠し』の世界が見事展開されているので、ぜひ劇場で体感してほしい。
舞台『千と千尋の神隠し』は、東京・帝国劇場にて3月29日まで、大阪・梅田芸術劇場メインホールにて4月13~24日、福岡・博多座にて5月1日~28日、札幌・札幌文化芸術劇場 hitaruにて6月6日~12日、名古屋・御園座にて6月22日~7月4日上演。
※辻本知彦の「辻」のシンニョウは点1つ