アメリカで豪華版聖書を売り歩くセールスマンに密着 メイズルス兄弟の傑作ドキュメンタリー予告解禁
ドキュメンタリー映画『セールスマン』(1969)が11月26日より劇場公開される。これに先駆けて本作の予告編、メインヴィジュアルが解禁。さらに翻訳家の柴田元幸、映画評論家の町山智浩ら著名人からのコメントが到着した。
【動画】メイズルス兄弟のマスターピースが日本上陸『セールスマン』予告編
本作は、1960年代の終わりのアメリカで豪華版聖書を売り歩くセールスマンたちの旅に密着したドキュメンタリー映画だ。“ダイレクトシネマ”を牽引したメイズルス兄弟の代表作として世界映画史に欠かすことのできない傑作と評価されるが、日本では、特集上映などの機会こそあれ、映画館でのロードショー公開は今回がはじめてとなる。
1960年代終わりのアメリカ。ポール・ブレナンとその仲間たちは、金色に輝く豪華版「聖書」を売るミッドアメリカン・バイブル・カンパニーのセールスマンだ。神と会社のため、今日も聖書を売り歩く。教会から紹介された悩める大衆をターゲットに訪問販売の旅へと繰り出す。
孤独な未亡人、移民、生活が逼迫している家庭など、彼らはさまざまな客に「売り込み」をする。ジョークを交えたおしゃべり、おだてたり強くでたりの駆け引き。安モーテル、煙いダイナー、郊外のリビング…。雪深いボストンから湿度の高いフロリダまで旅をする4人のセールスマンの姿を追い、アメリカの夢と幻滅を鮮烈に描きだす。
ドキュメンタリー映画の潮流“ダイレクトシネマ”を牽引した兄弟アルバート&デヴィッド・メイズルスは、『グレイ・ガーデンズ』『ローリング・ストーンズ・イン・ギミー・シェルター』など数多くの名作を残し、映画史にその名を刻んだ。アルバートは撮影監督としてオムニバス映画『パリところどころ』のジャン=リュック・ゴダール監督篇に参加。ゴダールは彼を「アメリカ最高のカメラマン」と評した。
兄アルバートは、東欧からのユダヤ系移民の親のもとボストンで生まれ、シラキュース大学で学士号を、ボストン大学で修士号を取得し、3年間心理学の教鞭をとった。1955年の夏、ロシアの精神病院で患者を撮影し、心理学から映画への転換を図った。その成果である『Psychiatry in Russia(原題)』は、アルバートにとって初めての映画制作の現場となった。数年後、弟のデヴィッドと共にミュンヘンからモスクワまでオートバイで移動し、その途中でポーランドの学生革命をテーマにした初の共同作品を撮影した。
1960年、アルバートは、ケネディとハンフリーの民主党予備選挙キャンペーンを描いた『プライマリー』(ロバート・デュー監督作品)の撮影監督を務め、その後、兄弟で『Meet Marlon Brando(原題)』(1966)、『With Love from Truman(原題)』(1966)を発表。そして本作『セールスマン』で全米映画批評家協会賞を受賞する。
1987年に弟のデヴィッドが死去した後、アルバートは単独でドキュメンタリー映画を撮り続け、監督・撮影を務めた『アイリス・アプフェル! 94歳のニューヨーカー』(2014)は2016年に日本でも劇場公開された。アルバートは2015年に死去。メイズルス兄弟は生涯に30本以上の映画を制作し、その多くは芸術、アーティスト、ミュージシャンに焦点を当てたものだった。
メイズルス兄弟の代表作である『セールスマン』は、独自の観察スタイルでノンフィクションの世界に革命を起こした。アメリカの価値観に深く根ざした消費主義について映画史上最も深く洞察した画期的なドキュメンタリーが、製作から半世紀以上の時を経て、ついに日本にやってくる。
ドキュメンタリー映画『セールスマン』は、11月26日より全国順次公開。
※柴田元幸、町山智浩らのコメント全文は以下の通り。