＜カンヌ映画祭＞河瀬監督『2つ目の窓』受賞ならず 最高賞はトルコの『Winter Sleep』
映画
第67回カンヌ映画祭の授賞式が24日夜、行われた。最高賞のパルムドールにはトルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督『Winter Sleep（原題）』が輝いた。トルコ映画の同賞受賞は『路』（82）以来、32年ぶりの受賞となる。日本から唯一コンペ部門に参加していた河瀬直美監督の『2つ目の窓』は賞に届かなかった。
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プレゼンターのクエンティン・タランティーノ監督とユマ・サーマンの『パルプ・フィクション』コンビから賞状を手渡されると、ジェイランの顔に安堵の表情が浮かんだ。今回で5回目のコンペ部門へのノミネートを数え、過去作では2席にあたるグランプリに『冬の街』（03）、『昔々、アナトリアで』（11）の2回、監督賞に『Three Monkeys 〜愚かなる連鎖～』（08）で輝くなど、最高賞まであと一歩のところで逃し続けてきた。今年は映画祭序盤に上映され、「パルムを獲るなら、この作品」と評論家たちも高く評価していた。だが、著名な監督たちの最新作がずらりと並ぶラインナップには最後まで落ち着けなかったに違いない。一言ずつゆっくりと感謝の受賞スピーチを述べる姿からは、プレッシャーから解放された監督の真情がよく伝わった。
冬ごもりのように閉じ込められた村の中で、人間関係の単純さと複雑さが浮かびあがる会話劇は、セレモニー後に行われた審査員会見で委員長を務めたジェーン・カンピオン監督が「観る前は恐れおののいたわ」と笑いながら話したように3時間16分にも及ぶ大長編。しかし、なんでもないような雑談に思わず共感してしまうような普遍性も兼ね備えた演出は決して飽きさせない。人物の出発点をアントン・チェーホフから作り上げたという監督。これまで日本では映画祭などでの上映しかなかったが、この受賞を機に、劇場公開されることも期待したい。
カンピオンを始めとして、女性が過半数を占めた審査員構成のため、開幕前から女性監督作品が注目されていた。そんな中、見事にグランプリに輝いたアリーチェ・ロルヴァチェル監督は長編劇映画2作目、33歳の新鋭女性監督だ。厳格な父親の方針のもと、世俗を離れた田舎で養蜂を営む一家に、更生のために迎えいれられた少年やTVバラエティ番組の取材などの部外者が変化をもたらしていく物語。少女の面影を残しながら、一家の中で自立した役割を果たそうと揺れる、思春期の心情を表現したヒロインの演技が心に残った。
概ね下馬評通りの受賞結果となったが、プレスルームでの反応が分かれたのが審査員賞の2本。初のカンヌコンペ入りとなったカナダのグザヴィエ・ドランの『Mommy（原題）』は、公式上映でも大きな反響を得ていたことから、受賞を喜ぶ声と同時に、もう少し格上の賞を期待していた人々からはやや残念の声も漏れていた。あまりにも早くカンヌの階段を駆け上ってきたが、まだ25歳。母子愛と三角関係という、監督の個性が見事に表現された作品だったが、これからもっと素晴らしい映画を作り続けていけるだろう。
一方の巨匠ゴダールがアナウンスされた瞬間には、審査員賞受賞の意外さに驚く声と「ノー！」と批判的な声とが入り混じった、悲鳴にも近い反応がどよめいた。この受賞に対して審査員のジャ・ジャンクー監督は2人の監督の創作に対する「情熱と自由さ」を讃えたと説明する。確かにゴダールの難解な物語は観る者を挑発するが、少年のようないたずら心で3Dと戯れる姿に、この評価も納得がいくものだと感じた。（文：岡崎 匡）
＜受賞結果一覧＞
パルムドール（最高賞）
『Winter Sleep（原題）』ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督
グランプリ
『The Wonders（原題）』アリーチェ・ロルヴァチェル監督
監督賞
ベネット・ミラー（『Foxcatcher（原題）』）
審査員賞
『Mommy（原題）』グザヴィエ・ドラン監督
『Goodbye to Language（原題）』ジャン=リュック・ゴダール監督
脚本賞
アンドレイ・ズビャギンツェフ、Oregon NEGIN（『Leviathan（原題）』）
女優賞
ジュリアン・ムーア（『Maps to the Stars（原題）』）
男優賞
ティモシー・スポール（『Mr. Turner（原題）』）
カメラドール（新人監督賞）
Marie AMACHOUKELI、Claire BURGER、Samuel THEIS（『PARTY GIRL（原題）』）
