なぜ惹かれてしまうのか 歴代『バットマン』ヴィランたちの“危険な魅力”をひも解く
“バットマン”という物語の魅力としてヴィランの存在をあげる人は多い。アメコミの中でも『バットマン』のシリーズは名だたるヴィランをデビューさせてきた。最も有名なヴィランと言えばジョーカーだろうか? このキャラの秀逸さは映画『ダークナイト』(2008)で本キャラを演じたヒース・レジャーさんが第81回アカデミー賞助演男優賞を、『ジョーカー』(2019)で彼にふんしたホアキン・フェニックスが第92回アカデミー賞主演男優賞を取ったことからもわかる。演じた俳優にオスカーをとらせるキャラなんて他にいるだろうか? つまりそれほど演じがいがある人物ということなのだ。
【写真】50年以上前のジョーカーも! 映画『バットマン』歴代ヴィランたちを振り返る
人気ヴィランを生み出し続けた理由とは?
なぜ『バットマン』が人気ヴィランを次々と生みだすことができたのか? それは本作が犯罪探偵物だったことが大きい。いわゆるスーパーヒーローの中にはクライムファイター(犯罪と戦う者)と呼ばれる者たちがいる。スーパーマンも街のギャングなどとも戦うが、怪獣だったり、宇宙からの侵略者だったり、ロボットだったりと戦い、また天災から人々を守る。それに対しバットマンは(いくつかの例外はあるにせよ)、基本ゴッサム・シティという街中で起こる犯罪に立ち向かうヒーローだ。コミックの中でバットマンがスーパーマンにこういうセリフを言ったことがある。「地球の平和を守ることと悪徳の街(ゴッサム)を浄化することは全く違う次元の話なのだ」と。
逆に言えば『バットマン』の冒険はヴィランがゴッサムの街で事件を起こさないと始まらない。物語を動かす人物を主役と言うのなら、『バットマン』のストーリーにおいて真の主役はヴィランなのである。またアメコミ・ヒーロー物は基本的に敵を殺さない。バット・キックをくらってジョーカーが爆発したり、バット光線でペンギンが燃えてしまうことはない。なのでヴィランは何度も何度もコミックに登場する。要はヴィランはゲストではなく準レギュラーでもある。従ってクリエイターたちはいかに話を面白くするヴィランを登場させるかに力を注いできた。
ここで重要なのは『バットマン』が絵で語るコミックだったということ。つまり『バットマン』のヴィランはコミックのコマの中で、バットマンと対決した時に目立つビジュアルでなければならない。バットマンは無口で黒いマスクをかぶりダークな衣装を着ているため、ヴィランが対照的なデザインとなるのは必然的だ。
ジョーカーは笑っていて白い顔で派手なジャケットを着ている。鳥ではないのに飛べるコウモリをモチーフにしたバットマンに対し、鳥なのに飛べないペンギンの名を持つ悪党が登場する。マスクを使って2つの顔を持つバットマンの前に、そもそも顔面が2つに分かれたトゥーフェイスが立ちふさがる。男がBATなら女はCATという言葉遊び的なキャットウーマンが誘惑する。
また、バットマンとヴィランが対照的なのは見た目だけの問題ではない。基本バットマンが自分を抑え、ストイックに犯罪と戦う存在だからこそ、ヴィランは自己実現のために犯罪を犯す連中として描かれる。コミックの中ではバットマンよりヴィランの方が伸び伸びと楽しそうだ。やりたい放題で開放感があるからこそヴィランに惹(ひ)かれてしまうのだろう。