夏帆、『silent』『ブラッシュアップライフ』で再注目 透明感&存在感あふれる演技の魅力
昨年『silent』(フジテレビ系)で抜群の存在感を見せ、切なさで存分に泣かせた夏帆(31)。現在は、バカリズム脚本によるドラマ『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系/毎週日曜22時30分)で、主演の安藤サクラ、共演の木南晴夏らとともに、いい具合に力の抜けた女子力トークを繰り広げながら、その巧さを見せつけている。CMデビューから今年で20周年。夏帆は、縦横無尽にジャンルの境界線を行き来してみせる、『silent』での評価だけではまだまだ足りない魅力的な俳優だ。
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◆衝撃だった『天然コケッコー』での美少女ぶり
夏帆といえば、ある一定の年齢以上の人にとっては、いまだ『天然コケッコー』の(もしくは『ケータイ刑事』シリーズの)超絶美少女のイメージが残る人も多い。「ま、眩しい!」と片手をかざしてしまうほどに、キラキラと強烈に輝きを放つティーンだった。もちろん、当初からビジュアルだけでない、涼やかな空気感や他とは一線を画すオーラを伴い、その後、立て続けに主演映画が公開されて、高い評価も受けていた。しかし、初期の彼女の大きな武器であったことは事実でありつつ、同時に、乗せられる“美少女”との冠は、そこだけにフォーカスされたくはない枷であったかもしれない。
やがて映画『パズル』『東京ヴァンパイアホテル』など、一見挑戦的とも思える出演作を並べていくが、もとより作品というモノづくりに情熱を注ぐタイプに思える夏帆の歩む道としては、さほど不思議なものではなかったと言える。彼女と一緒に仕事をした俳優やスタッフからは「竹を割ったような性格」という感想が聞こえてくるが、実際、何度も取材させてもらった身としても、非常に「オトコマエ」な印象が強い。今から10年近く前に、ある監督から話を聞いた際にも、「スタッフといることが多く、よく周囲を見ている。俳優部という意識の強い人」と語っていたのをはっきりと覚えている。
◆『silent』でいくつもの面を持った奈々を全身全霊で表現
着実にキャリアを積み上げてきた夏帆。だが、彼女の実力からするに、もっと注目されていいと思っていたファンは多いはず。そこへきての『silent』である。脚本、演出、映像、音楽、キャストとすべてがうまくかみ合ったから生まれたブームだったのはもちろん、あくまで紬(川口春奈)と想(目黒蓮)のメインのカップルから見れば脇の存在となりうる、湊斗(鈴鹿央士)や、夏帆が演じた奈々および、奈々と春尾(風間俊介)のふたりといった周囲のキャラクターたちが、私たちの心を揺さぶったことも大きく貢献した。
なかでも夏帆。ろう者を演じた夏帆は、本作でただの一度も声を発することがなかった。モノローグや夢の中でも夏帆演じる奈々は、一切声を出さなかったが、それでも“おしゃべりな奈々”の魅力は、私たちに十分に伝わった。
ショーウィンドウの青いハンドバッグに憧れ、好きな人との手つなぎを想い、スマホを耳にあてる。“手話”というプレゼントが、使い回しからおすそ分けへと変化し、静かな図書館で周囲を気にせずおしゃべり(手話)を続け、時に子どもから叱られる。そしてカスミソウのおすそ分け。すべてのシーンが、今でも脳裏によみがえる。
夏帆の奈々が素晴らしかったのは、たとえば3話で湊斗から想へのLINEオーディオ着信に「嫌がらせだ」と憤ったり、紬の存在に嫉妬したり、かと思えば、想との出会いが描かれた6話では「音のない世界は悲しい世界じゃない」と、追い詰められた想をほぐし、8話では春尾とのエピソードで「ニコっ」と音が聞こえるような笑顔を見せたと思うと、「ヘラヘラ生きている聴者」と憎しみでいっぱいの視線を向けるなど、奈々というキャラクターを全身全霊で私たちに預けてくれたからだろう。