『M‐1』決勝で“一度は観たかった”コンビ! 記憶に残る敗退者たちを振り返る
■ 金属バット

かつてダウンタウンの漫才を横山やすしが「チンピラの立ち話や」と批判したという逸話が残っているが、「チンピラの立ち話」の雰囲気を令和に体現するコンビが金属バットと言えよう。
長身でスキンヘッドの小林圭輔と、細身でやたら髪が長い友保隼平という、一度観たら忘れられなくなる風体のコンビだが、そのネタも一度聞いたら忘れられなくなる。ひょうひょうとボケる小林に友保がボソボソっとツッコむスタイルだが、その内容はときにテレビ放送ではギリギリアウトなのでは、というアンタッチャブルな劇薬。とは言え露悪的になりすぎないところが彼らの持つ雰囲気とバランス感覚の魅力か。2016年ごろから注目され始め、単独ライブのチケットは即完売の人気ぶりとなった。
『M‐1』は2018年からラストイヤー2022年大会まで5年連続で準決勝に進出したが、決勝の高い壁に阻まれ続けた。特に2021年大会では、決勝常連のハライチに敗れ、敗者復活戦2位で涙を飲んだ。「いつかは決勝行くだろう」と目されていた彼らのネタが『M‐1』決勝で一度も観られなかったのは、ある意味で衝撃的だった。
■ プラス・マイナス
岩橋良昌(現・シャドウ岩橋)と兼光タカシからなるプラス・マイナス。彼らについては、文字通りあと一歩のところまで『M‐1』決勝に迫ったと言える。
爆発力のある岩橋のツッコミと、芸達者でさまざまなモノマネを操る兼光による漫才は、テレビで見てもおもしろいが、劇場で目の当たりにするとその爆発力を思い知らされる。『M‐1』では準決勝に進出すること5回。中でもラストイヤー2018年の敗者復活戦では、視聴者投票で37万票以上を稼ぐも、兄弟コンビ・ミキの前に惜敗し、彼らの挑戦の歴史は幕を下ろした。周知のとおり、岩橋が吉本興業と契約解消するとともに、コンビは解散。そのニュースは、『M‐1』以後も彼らの漫才を観られると期待していた多くのファンを悲しませた。
■ コウテイ
プラス・マイナスと同様すでに解散しているコンビでは、コウテイも一度は決勝で観たかった。下田真生と九条ジョーからなるコンビで、おそろいの深紅の衣装がトレードマークだった。
前髪が前上を向く独特のヘアセットの下田が舞台を広く使って全身全霊でボケまくるのに対して、九条が独特のワードでツッコミ続けるというカロリー高めのネタが特徴で、2020年には若手コンビの登竜門である『ABCお笑いグランプリ』を優勝した。『M‐1』での活躍も期待されていた矢先、2023年1月末に解散。まだ出場資格年数を残していた中での有望なコンビの終止符は、お笑いファンには衝撃だった。
■ ななまがり
『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の「新元号当てられるまで脱出できない生活」で監禁された末に見事「令和」を当てたことで知名度を高めた森下直人、初瀬悠太からなるななまがり。これまで多くの鬼才を輩出してきた大阪芸大の落研出身の2人だ。
持ち味は、何と言っても森下が演じ分ける強烈なキャラクターの数々。次から次へと出てくる森下の奇人キャラは、少年誌のギャグ漫画を彷彿とさせる。『キングオブコント』(TBS系)では決勝進出を果たしているが、『M‐1』では2022年、2023年と準決勝までたどり着き、あと一歩のところで夢破れた。
■ Dr.ハインリッヒ
双子コンビと言えば『M‐1』決勝の舞台を踏んだダイタクがいるが、もう1組、Dr.ハインリッヒが決勝に立つ姿も見たかった。シックな黒のパンツスーツで決めた一卵性双生児の幸(みゆき)と彩(あや)からなる姉妹コンビだが、大きな特徴の1つは双子でありながら「双子ネタ」をほとんど扱わない点だ。女性コンビらしい「女性あるある」も扱わない。武器となるのは、自由な空想から生まれる「彼女たちは何の話をしているんだ?」と観客を煙に巻くような独特のしゃべくり漫才だ。彼女たちのネタを観ていると、双子だから相方になったというより「相方がたまたま双子だった」という印象が近い。
かつてなんばグランド花月でのイベントでは、ネタを見たMC・ダウンタウンの松本人志が気になったコンビを聞かれて彼女らを挙げ、「すごく面白かった。将来が期待できますね」と称賛。しかし、2020年のラストイヤーも準々決勝で敗退。松本の前で再びネタを披露することは叶わなかった。
今回挙げた7組の何百、何千倍もの数のコンビ、トリオが夢破れて散っていった『M‐1グランプリ』決勝の舞台。そして今夜、21代目王者が誕生する。
『M‐1グランプリ2025』決勝戦は、12月21日18時30分よりABCテレビ・テレビ朝日系にて生放送。

