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スタローンの『ランボー』が完結 “終わらない戦争を生きる男”の終着点

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 だが実際は何ひとつ解決していなかった。あれから10年、70歳を過ぎたランボーは実家の地下にトンネルを掘り、広大な要塞を築き上げている。かつての敵、北ベトナム軍がやったのとまるで同じことを10年繰り返している。おそらくはいつか敵が攻めてくるかもしれない、という強迫観念が、ランボーにトンネルを掘らせた。ベトナム戦争の終結から40年近くが経過するけれども、主人公にとっての戦争はいっさい終わっていない。やっと祖国に帰り着いて、新しい家族を得ても、ものごとはひとつも良くならないのだ。物語の導入からして、『ラスト・ブラッド』には信じられないような狂気が漂っていた。

シリーズ完結作『ランボー ラスト・ブラッド』 (C) 2019 RAMBO V PRODUCTIONS, INC.
 そうして今だに心の闇を抱えるジョン・ランボーが奇跡的に得た家族は、しかし最新作の中盤あたりで無残に奪われてしまう。すでに人を超え、暴力の神と化して久しいランボーのことだから、もちろん奪われっぱなしでは終わらない。『ラスト・ブラッド』のクライマックス。今回も我慢を溜めに溜めて、『最後の戦場』で見た以上の、信じがたい暴力を大さく裂させるランボー。しかしここで思わずビックリさせられるのは、耐えに耐えた末の超バイオレンス…という展開に、実はもうカタルシスさえないということだ。70を過ぎたランボーの振るう、常軌を逸した暴力。終わらない戦争を生きる男はとうとうここまで来てしまった。安易な感情移入を拒否する、割と本物の狂気がここにはある。

シリーズ完結作『ランボー ラスト・ブラッド』 (C) 2019 RAMBO V PRODUCTIONS, INC.
 悪党に攫われた娘を奪還するために、主人公が悪戦苦闘する。そういう意味で『ランボー ラスト・ブラッド』は、たとえば『コマンドー』や『96時間』などの系譜に連なるアクション映画ではあると思う。だが義理の娘はあっけなく死に、後にも先にも身動きの取れなくなった主人公が滅茶苦茶に暴れて、本作は終わる。『ラスト・ブラッド』は、はっきり言えば困惑するしかない映画だ。だが18歳で陸軍に入隊、それ以来絶え間ない戦いを(肉体的にも、精神的にも)続けてきた男の、ひとつの終着点を描いてみせたのがこの作品なのだ。あるいは何も解決することはないのかもしれない。ひたすら暴力に生きた男は引き続き暴力に生きて、いずれ死ぬしかないのだろう。物語にせよ暴力描写にせよ、すべてをあまりに極端な方向に振り切った本作を観ていると、そのように思わざるをえない。『最後の戦場』でなかなか綺麗に終わったジョン・ランボーの物語を再度、しかもだいぶ変な形で再開したシルヴェスター・スタローンの真意について、もう何ヵ月か考え続ける必要がありそうだ。(文・てらさわホーク)

 映画『ランボー ラスト・ブラッド』は公開中。

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