香川照之、片岡愛之助、市川猿之助 憎らしいのにどこか気になる“池井戸ヴィラン”たち
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『半沢直樹』とならぶ人気シリーズとして2015年と2018年に実写ドラマ化されたのが、町工場・佃製作所の2代目・佃航平(阿部寛)の闘いを描いた『下町ロケット』(TBS系)。2015年放送のシリーズ第1作で航平のライバルにして物語後半のキーマンとして登場したのが、小泉孝太郎演じるサヤマ製作所社長・椎名直之だ。椎名はNASAの技術者出身という異例の経歴を武器に、徹底した実力主義を振りかざす経営者という役柄。好青年のイメージが定着していた小泉が、主人公への執拗(しつよう)な妨害工作を仕掛けるヴィランを熱演することで、クライマックスの盛り上がりにも寄与し、さらに俳優としての新境地も切り開いた。
小泉孝太郎は、『下町ロケット』で好青年のイメージから脱却する役どころを演じた
2018年放送の続編には、フリーアナウンサーの古舘伊知郎が敵役として参戦。古舘が扮したのは小型エンジンメーカー「ダイダロス」の代表取締役・重田登志行。古舘は代名詞とも言えるプロレス実況で培ったエモーショナルな語り口を活かして、帝国重工に対して強烈なルサンチマンをたぎらせる男を好演した。
『下町ロケット』で役者としても存在感を見せた古舘伊知郎
また現在放送中のNHK連続テレビ小説『エール』で“ミュージックティーチャー”こと歌の先生・御手洗役で話題を集めている古川雄大も2018年放送の続編に登場していた。古川が演じたのは、農林業協同組合職員の吉井浩。吉井は佃製作所を退職し家業の米作りを継いだ殿村直弘(立川談春)と農業法人を巡って対立。粘着質な語り口と殿村や佃をさげすむ態度で、ヴィランとして申し分ない存在感を放った。
“ミュージックティーチャー”とは正反対な憎まれ役を演じた古川雄大
また足袋作り百年の老舗が存続をかけてランニングシューズ開発に挑む姿を描いた2017年放送の役所広司主演『陸王』(TBS系)では、ミュージシャン、タレント、俳優として活躍していたピエール瀧が外資系スポーツ用品メーカーの営業部長・小原賢治役で登場。厳しい顔面と抑制された演技で利益至上主義の男を演じ、新たな一面をのぞかせた。
『陸王』で役所広司の前に立ちはだかる敵役を演じたピエール瀧
さらにラグビーワールドカップ2019の開催直前に放送され話題を集めた大泉洋主演『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)では、中村芝翫が物語後半に登場。父親から会社を受け継いだ3代目のボンボン社長・風間有也をユーモラスに演じ、池井戸ドラマと歌舞伎役者の相性の良さを体現した。
このように、どの登場人物も、演者の怪演により、主人公への感情移入とストーリーへの没入感を増幅させてくれた、憎たらしいのに憎み切れないキャラクターばかり。『半沢直樹』も、香川、愛之助、猿之助のほか、古田新太、池田成志、柄本明、江口のりこなどクセの強めなキャストが顔をならべている。俳優陣の演技合戦で、また新たな記憶に残るヴィランの誕生が期待できそうだ。(文:スズキヒロシ)