『天国と地獄』真犯人は八巻?陸?師匠?それとも女性? 盛り上がる「考察」まとめ
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さらにもう一つは、これぞ「考察」と唸(うな)らされるパターンだ。
彩子と入れ替わった日高が、なぜか最初からメイクが上手いという違和感は多くの人が感じたこと。それによって、「日高はこれまでにも誰かと入れ替わっているのではないか」という考察が浮上していた。たとえば、妹(岸井)や、大学時代の同級生で秘書の五木(中村ゆり)などだ。
そんな中、早くからSNSのごく一部で登場していたのは、「日高双子説」だった。
第3話くらいから「日高は双子で、双子の片割れの犯罪の後始末をしているのでは?」などという考察が出ていたが、第7話では一気に物語が進展。
記憶喪失になった日高<彩子>を心配した・日高満(木場勝己)が帰省するよう電話してきたことで、日高<彩子>は、自分が父の本当の子ではなく、連れ子だったことを聞かされる。日高には二卵性双生児の兄がいること。その兄が、彩子がずっと行方を追いかけていた「東朔也」だったこと。日高の母は離婚した際、日高だけを引き取っていたこと。
しかし、朔也の父はバブル崩壊後、ビジネスに失敗。土地開発会社社長で、連続猟奇殺人の被害者・四方に負債を押し付けられて困窮。その後、朔也が日高に手紙を送り、二人は歩道橋で一度だけ会ったが、兄だとは名乗らなかったこと。日高のあとをつけてきた母は朔也と対面し、自分が母だと名乗って、ボロボロの靴をはく朔也に1万円札と電話番号を渡したが、お金は受け取らなかったことなどなど…。
さらに、落書き男が依頼された男の「右手にほくろがあった」という情報から、陸は自分の師匠・湯浅(迫田孝也)ではないかと疑いを抱く。清掃業をしていた湯浅であれば、十和田の家の作業場にいたのも納得だし、数字の落書きを消す作業を陸に毎回依頼していたのも、仕事ぶりを知っているためだと合点がいく。
しかも、湯浅はちょうどやけどをしたと言い、右手に包帯を巻いているのもますます怪しい。しかし、そんなとき、湯浅は急に腹部に痛みを訴え、救急搬送されるのだ。急展開により、「湯浅=東朔也」説が濃厚に見えてきたが、不思議なのは、生き別れたはずの東朔也と日高陽斗が親睦を深めていたらしいこと。いったいどこで再会したのか。
また、父に引き取られた側と母に引き取られた側、その分かれ道から天国と地獄のように正反対の人生を送ってきた二人。とはいえ、それだけの理由で、日高が朔也の犯行に加担する流れになるだろうか。
湯浅と東朔也が同一人物らしいことは、湯浅がかつて陸に語った思い出――「俺の親父はいろいろ面倒な人でさ、でも、縁切るってのもどうしてもできなくて、結局死ぬまで振り回されっぱなしだったよ」とも、「てめえの手ェ動かして、汗水流してるやつが、ちゃんと報われなきゃいけねえってことだよ」という言葉とも、符合する。
それでも、少年時代の優しい朔也が、あるいは陸が慕う師匠が、連続殺人鬼とはやはりどうしても思えないのだが…。
結局、「考察」では八巻黒幕説をはじめとして、まだわからないことだらけ。しかし、それらの謎には、おそらく「呪いの石」と思われていた奄美の石が、実は「いろんなところを転がっていっても、最後は私のもとへ無事戻ってきますように」という「お守り」だったことが関係してくるはず。
さらにいえば、森下佳子脚本が、単なる「考察」狙いの入れ替わり作品とは思えない。それだけに、おそらく真犯人が判明してからこそ、この作品の本当に伝えたいものが見えてくるのではないだろうか。(文:田幸和歌子)
<田幸和歌子>
1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムをさまざまな媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。