劇場版『鬼滅の刃』はストロングスタイル 観客への“配慮”を捨てて挑んだ表現に迫る
■説明は本来異物なのか
説明を少なくすると、そのぶん作品性を高める余地は生まれる。しかし、複雑な設定や前後関係が頭に入っていなければそもそも楽しむことができない。どの映画においても説明シーンを省けば完成度の高い作品になるとは限らず、例えば劇場版『僕のヒーローアカデミア』はキャラクター設定などが丁寧に説明されていることで映画の魅力が生きている。しかし『鬼滅の刃』では、こういった配慮を極端に抑えても楽しめる理由が2つ考えられる。
テレビアニメ『鬼滅の刃』場面写真 写真提供:AFLO
ひとつは、物語が分かりやすいこと。例えば、オリジナルアニメ映画や原作の設定が複雑な作品であれば、説明を入れないとそれこそ観客は置いていかれ、映画として破綻してしまうかもしれない。その点『鬼滅の刃』は、目的も対立構造も分かりやすく、劇場版ではそれが丁寧に表現されている。バトルシーンでも、日本人が昔から慣れ親しんでいる“チャンバラ”要素が強いため、多くの観客に受け入れられやすいのだろう。もうひとつは、そもそもテレビシリーズが社会現象を起こすほど大ヒットし、その余韻を残したまま映画公開までたどり着いたこと。公開前の認知度が異常に高いという地盤が後押しになったのだろう。
『鬼滅の刃』が歴史に残る大ヒットを記録した要因はいくつもあるが、説明を極力省いた構成もそのひとつと言えるだろう。今夜放送される『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、原作を知らなくても楽しめる構成になっているので、日本の映画記録を塗り替えた作品をその眼に刻んでみてはいかがだろうか。(文:M.TOKU)
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、フジテレビ系にて9月25日21時放送。
※「煉」の正式表記は「火+東」