岸井ゆきの、“分かりやすい演技”を「最初からはやりません」
――テレビドラマと映画では、演じ方も変わるのでしょうか?
岸井:テレビドラマだと、例えば驚くシーンなども「そんなに驚きます?」というぐらい、分かりやすさを求められますよね。テレビドラマはテンポが重要な部分もあるので、パッと映ったとき何が起きているかが明確である必要があると思うので。これはメディアの違いでありどちらが良い悪いはないのですが、なるべく私は最初からはやらないです(笑)。監督から「もうちょっと分かりやすく」と言われたら調整していく感じです。
――主演作も増えてきましたが、現場に入るときに心掛けていることは?
岸井:空気は大切にしています。何か疑問があっても「雰囲気がピリっとしているから言いにくいな」とか「この人に言うと面倒くさそうだからやめよう」となると、良いものができないと思うので、そういった余計なことを考えなくていいような雰囲気になるように心掛けています。映画作りの現場ってやっぱり、穏やかで活気がある方が、絶対良いものができると思うので。あとは、私は人一倍体力があるので、元気パワーを全面に出して現場に臨むようにしています(笑)。
――岸井さんは、むきだしというか、無防備な表情がよくスクリーンに映し出される印象がありますが、映り方みたいなものを意識されたりしないのですか?
岸井:あまり自分が美しく映りたいとか、どう見られているのかというのは意識していないです。それは監督やカメラマンさんが決めることなので。さすがにあまりにもダメだったら「ちょっと抑えてください」と言われるかもしれませんが(笑)。でも、たまに「えっ、いつ?」みたいにフッと涙を流す人いるじゃないですか。私生活でもそういうことってあまりないので、自分的にはそういうお芝居って違和感があるし、逆にすごいなと思います。お芝居をしているというよりは、生きている感覚を切り取っていただくというのが、理想的なのかなと思います。
2022年は、本作のほか、第72回ベルリン国際映画祭に出品された三宅唱監督の『ケイコ 目を澄ませて』や、吉田恵補監督作『神は見返りを求める』など話題作が相次ぐ岸井。映画愛を胸に、さらなる飛躍が期待される。(取材・文:磯部正和 写真:松林満美)
映画『やがて海へと届く』は全国公開中。